小説 ドラマチック桃太郎 鬼ヶ島の夕陽
40代前半  大阪府
2020/04/10 20:49
小説 ドラマチック桃太郎 鬼ヶ島の夕陽
「友を大切にな
そして強く生きるんだぞ」

照らされた夕陽の中の、うっすらとした記憶。
幼い頃の記憶なんてそんなもんだ。



育ててくれた爺ちゃん婆ちゃんを守る為に
オレは強く生きなきゃいけないんだ。



「なぁ、キジ。まだ何も見えないか?」

「そやなぁ桃やん、鬼ヶ島はまだ先やわ」

「腹へっちゃったよ、もう日がくれるぜ?
桃にもらったキビダンゴ食ったの朝だろ?
あれからなーんにも食ってねぇんだよ」

「サム!モモッチ困らせんじゃねぇよ」

「なんだてめぇ犬のくせに!
もっとちゃんと漕げよ。
てかサムじゃねぇ、猿だ」

「言われなくても漕いでるって、黙れよサム。
ところでキジィさ、本当に鬼ヶ島の場所知ってるの?」

「犬には分からんやろなぁ、オレ鳥やで?
知ってるに決まってるやんけ」

「みんな落ち着けって。
ほら、団子やるからもう少し頑張ろう」


金銀財宝をかき集める悪い鬼?
そんなヤツを野放しにしてて良いのか?

負ける気なんてしない、この村で相撲をとってオレに勝てるやつはいないんだ。


「爺ちゃん、舟借りて良いか?」

「なんじゃ桃よ。今日ワシは芝刈りと墓参りに山へ行くぐらいじゃから別に構わんが。
お前さんはどこへ行こうっていうんだ?」

「鬼ヶ島に行って、鬼の親分をこらしめてやろうと思って」

あれが今朝のことなんて思えない。

爺ちゃん絶対怒って反対すると思ったけど、意外とすんなり舟貸してくれたなぁ。
ただ鬼ヶ島まで舟を漕ぐのがこんなに大変だとは思わなかった。

猿はうるさい
犬はなれなれしい
キジは関西弁

相手するの疲れるけど、こいつらを呼んでおいて本当に良かった。仲間は必要だ。
オレ1人じゃ絶対に辿り着けない。

「桃やん見えて来たで!鬼ヶ島や!」

海の上に岩で囲まれた島が見えてきた。
大きな岩の上に城が建っている。
鬼ヶ島だ、間違いない。

「疲れたぁ。キビダンゴ1つでこんな働かせるって桃、お前鬼よりひでぇよ」

「ごめんごめん猿。村に帰ったら婆ちゃんの手料理いっぱい食わせてもらおうぜ!」

「モモッチ、それ最高じゃーん」

「おいおい、桃やん!オレ鶏肉食われへんから婆ちゃんにちゃんと言うといてや!!」


オレ達が鬼ヶ島に上陸すると、いかにも子分っぽい鬼が出てきた。こんな奴に用はない。
オレは親分を倒さなきゃいけないんだ。

「おい、親分はどこだ?」

「なんだてめぇら、ここはガキがくるところじゃねぇよ。はいはい帰った帰った。」

去ろうとする子分鬼の足に犬が噛み付いた。

「いてててて!
 おいコラ犬、何すんだ、離せ」

「桃は親分に用があるんだよ!
お前みたいな小物は引っ込んでろ!!」

「小物ってコラ!猿、お前もう一度言ってみろ」

「子分はん、やめときやめとき!
悪いけど桃やんめちゃくちゃ強いで。
あんたじゃ勝てんて」

「おいおい勘弁してくれよ、
マジめんどくせぇなこいつら。
ってかおい犬!犬っっ!早く離せって!!
いてぇんだよ!!」

騒ぎを聞きつけた鬼達が集まってきた。

「え、お前どうしたの??こいつら誰?
てか犬ガッツリ噛んでんじゃんww」

「いや、わかんねえよ。いきなり親分出せとか意味不明な事言い出して。
いてててて、早く離せってよ、おい!犬!!」

近づいてきた鬼に猿が飛びかかり顔を引っ掻いた。それを見た鬼達は面白がって騒ぎ始める。

「ははは、おい見ろ、血だよ!
こいつ血が出てるぜ!マジうける!
情けねぇなぁ、おい猿もっとやれww」

「おい、黙れお前ら!バカにすんじゃねぇ。
てか犬!!お前聞こえてんのか?
早く離・・・せ・・・」

ふと騒ぎがおさまった。
空気がピンと張り詰め、鬼達の顔から笑みが消えている。

「おい、バカども!何の騒ぎだ?
仕事サボってんじゃねぇよ。
こっちの岩・・全然砕けてねぇじゃねぇか。
早く岩砕いて石作っとけ!
死にてえのか?ああん?」

「あ・・・おおお親分っ!!
これはそのっ、あの・・・
なんか村から来たガキどもが親分を出せってうるさくて」

親分は思っていたよりもずっと大きい鬼だった。明らかに子分達とは違うオーラがある。
思わず足がすくみそうになったけど、不思議と怖さは感じなかった。

オレは1人じゃない。
いざとなれば仲間が助けてくれる。
あいつらがそういうヤツだって事、オレは知ってる。

「お前が親分か!
村の財宝を盗みやがって
お前を許さん。勝負しろ!」

「おいガキ、口を慎め!!
オレ達の財宝はなぁ盗んだんじゃねぇ。
村のヤツらがオレ様に贈呈したんだ、贈呈。
貰ってやってんだよ」

いいぞっ!親分っ!!

子分達はガハハと笑っている。

「ところでガキ、貴様の名前は何と申す?」

「オレは桃太郎、桃から生まれた桃太郎だ!」

「も、桃から生まれた・・・だと?」

子分達が笑い出した。

「こいつバカか?桃から生まれただってよ」

「うるせえ!婆ちゃんが川で洗濯してる時に桃に入ったオレを助けてくれたんだ。
そして大切に育ててくれた。
オレは恩返しの為にも財宝を奪ったお前らを許さねえ。二度とうちの村に来るな」

「ほう、小僧面白いじゃねぇか。
お前の勇気に免じて俺様が相手してやろう。
お前の1番得意なものは何だ?
それで勝負してやる。」

「得意なもの・・・相撲だ!
相撲でオレが勝ったら二度と村には近づくな!」

「よし、相撲で勝負してやろう。どんな結果になってもお前らは口出しするな、これは男と男の勝負だ。その代わり桃太郎よ、お前が負けたらそこにいる3匹共々食っちまうがそれで良いな?」

「ああ、それでいい。
でも約束は守れよ、男と男の約束だ」

「男と男の約束・・・か」

猿がわめき出した。
「おいおい、桃!
そりゃねぇって、聞いてないよ!!
あいつヤバイって、デカすぎる無理無理」

「あかんあかん、桃やん!
あいつら絶対鶏肉好きやんか!
見たら分かるやん!!」

「大丈夫だ、オレを信じろ!
帰ってお前らに美味いメシ食わせてやるから見といてくれ」

みんなが輪になって見つめる中、オレは親分と向かい合った。

オレは勝つ、絶対に勝つ!


はっけよい・・・のこった!

子分の掛け声と共にオレは親分に体当たりして胸を合わせて組み合った。
なんて大きな体なんだろう。
村のヤツらなら最初の一撃で吹っ飛ばせてたはずだ。

「なんだ桃太郎よ、
お前の力はこんなものか?」

バチーーン

親分の強烈な張り手が左頬を襲う。
オレは思わず気絶しそうになった。
こいつはマジで強い。

親分はさらに圧力をかけてぶつかってきた。
吹っ飛ばされそうになったけど、なんとか持ち堪えた。

「大したことねぇなぁ、
さて・・・川で拾われた可哀想なガキを倒して爺さん婆さんも食っちまうかな。
桃から生まれたとか嘘までついて、どうせロクでもねぇみすぼらしいジジババだろ?」

目に涙が溢れた。
爺ちゃん婆ちゃん・・・
2人は子供を亡くしてから毎晩泣いてたらしい。あんなに優しい人たちに神様はなんて酷いことをするんだ。

爺ちゃん婆ちゃんは実の子じゃないオレみたいなやつを可愛がってくれた。
親がいないといじめられてたオレを、いつも目に涙を浮かべた笑顔で抱きしめてくれた。
貧乏で泥まみれなのにいつもオレの将来を楽しみに笑ってた。
シワだらけの笑顔でいつもいつも。

オレは幸せだった。

爺ちゃん、婆ちゃん
例え生まれ変わっても
また一緒に暮らしたいよ

嘘つきだと?

ふざけるな
ふざけるな

ふざけんじゃねえ!!
オレは桃から生まれた桃太郎だっ!!

パンパンに膨れ上がった両腕の感覚はもう無い。でもオレは鬼を持ち上げた。

「なにぃっ、貴様っっ」

おおっ!!
子分達が声をあげる

「いけっ、桃!!お前ならやれる!」

爺ちゃん、婆ちゃん
いつかオレ「自慢の息子」になれるかな?

親分を持ち上げ、すでに感覚のない腕を思い切り地面に叩きつけた。

全身から力が抜けてオレが倒れ込んだ時、親分はすでに地面に転がっていた。

お、親分っっ!!

子分達が駆け寄る。

「すげえええええええーっっ!!桃やん
ホンマに親分倒しよったでーーーぇぇ!!」

猿とキジは大はしゃぎだ。
犬はまだ噛んでる。

爺ちゃん、婆ちゃん、やったよ。
勝った、オレは勝った。

「おい親分、約束は守れよ」

「男と男の約束だ。
分かった、村には手は出さねえ。」

お、親分・・・

「うるせぇ、てめぇら黙ってろ!
今から仕事の続きしてもらうからな!」

「お、親分・・・自分ちょっと足痛いんすよ
・・・この犬がね、まだ噛んでんすよ」


こうしてオレ達は鬼ヶ島を後にした。
帰りの舟も仲間たちは賑やかだ。

「桃!マジ腹へって死にそうだって!」

「サム、モモッチ困らせんなって!
帰って婆さんの料理食わせてもらうまで我慢しようぜ」

「そうや、オレ帰る前に空飛んであの島見てんけどな、金銀財宝なんてどこにも無かったで。
ほんま騙されたわ、せっかく金持ちになれる思ったのになぁ」

「あ、それオレも思った。
桃爺を嘘つき呼ばわりしたのに見栄はりやがって。嘘つきはどっちだよって話だよな!」

「まぁどうだって良いじゃん?
早く帰って婆ちゃんの美味いメシ食ってゆっくり寝ようぜ!」

「桃やん、婆ちゃんに言うといてや!
鶏肉だけはホンマにやめてって」

「モモッチの家に食材無かったら・・・
ごめん。覚悟はしといてくれよ、キジィ」

「ちょっとお前らシャレならん事言うなや」

ははははは

めでたしめでたし




小高い岩の上に建てられた、美しい石碑の前

親分は海を見ていた。

若者を乗せた舟が夕陽に照らされながら海の上を進んでいく。


「頼む、息子の墓を作ってやりたいんじゃ。あんたの島の石を分けてくれんか?」

村のおっさん、もうあんたも爺ちゃんって呼ばれる歳か。時の流れは早いもんだな。

あんたがこの島に来たのは、嫁さんが死んじまってオレもちょうど独り身になった時だった。
なあ嫁さんよ、お前の墓を作ってたっけ。

おっさん、あの日もあんたと2人でここから夕陽を見たよな。

「オレがあんたの息子の墓を作ってやる。
鬼ヶ島で1番良い石でな。
あんたの息子のことだ、どうせ海と舟が好きだったんだろ?墓はあんたが1番気に入ってる山に建ててやれ。山の上なら海がどこまでも見渡せる。しっかり芝刈りして手入れしろよ!」

海はどこまで続いてるんだろう?
嫁よ、お前さんの口癖だったな。
俺は馬鹿だからそんな答えさえ分からない。

広い世界を飛び回り
困ってる人々を助け
周りの人に愛される

そんな人になって欲しい

お前は生まれたばかりのガキに
そんな夢を託していた。

「なぁおっさん、墓を作ってやる代わりに俺の願いを聞いてくれるか?」

この島で広い世界を知ることはできない
この島でみんなに愛されることはない

寂しくなる、でも俺は父親だ
きっとコレが正解なんだろ?

愛してる

俺は石碑を見て、ひとつ頷いた。

「うちのガキを育ててやってくれ。
誰からも愛され、人々を助ける
そんなやつに育ててやってくれねえか?」

事情を説明すると、おっさんは引き受けてくれた。


夕陽が地平線に沈む頃、
眠っているガキをおっさんに手渡した。

「いいか、ワシはこの子を息子として育てる。だが父親はお前じゃ。
この子には・・・そうじゃな、
桃から生まれたとでも伝えておくぞ。」

俺は息子の顔をのぞき込んだ。
西に傾いた夕陽がオレンジ色ににじんでいる。

本当に不思議だ。
寝顔まで嫁さんに似てやがる

悔しい
どうして俺は守ってやれなかったんだ

視界のにじんだオレンジ色はぐしゃぐしゃに塗り潰され、一雫の水滴が頬を伝った。

その時ガキが目を覚ました
どうせ俺の顔も忘れてしまうんだろう。
幼い頃の記憶なんてそんなもんだ。

嫌われ者は俺1人で十分だ

「友を大切にな
そして強く生きるんだぞ」

照らされた夕陽の中
これは男と男の約束だ
コメントする

コメント

40代前半  大阪府

2020/04/11 15:16

4.  >>2 UuuU*さん
いつもお読みいただきありがとうございます。カジノらしくない週間少年ジャンプ連載漫画のような冒険活劇、お楽しみいただけましたか?

Uさんならお気付きかもしれませんが今回はセリフメインの文章、そして時系列をバラバラに入れ替えて「過去の回想シーンで終わる」という構成にチャレンジしました。5000文字上限に対して、4998文字!
各キャラの特徴を出す為にはもう少し文字数が欲しかった。

お尻マニアの方の為に、次回は「桃尻から生まれた桃太郎」をお送りしますね。
「うんこ」が出てきます、ご了承ください。

40代前半  大阪府

2020/04/11 15:03

3.  >>1 凛さん
コメントありがとうございます。
「実は桃太郎の父親は鬼だった説」で書いてみました。
父親の愛って言葉にするの難しいね。

恋と愛って別物であって、愛というのは言葉で伝えるべきものではなく、ある行動を受け取り側が愛と感じるかどうかなのかなぁと思ったりするわけです。今回でいうと「愛してる」という言葉じゃなく、石碑に向かって頷いたって動きに僕はね愛を感じたりするわけですよ。

回りくどく分かりにくいものだから愛は尊い

どうです?このまとめ方!(笑)

70代以上  北海道(道北)

2020/04/11 11:17

2. カジノ先生の文章が好きでよく拝見させて頂いております。
一貫して、少年の瑞々しい感性と迷い、大人への戸惑いと憧れ、作者は意識していないのかもしれませんが、読む者には青春を思い出させます。
また今回はテセウスのパラドックスという手法を取り入れられた事で、昔話と流行の今どきの話を融合させた強かさも感じ取れました。
次回作では桃太郎の桃尻の部分に焦点を当てた物語を期待しております。

40代半ば  大阪府

2020/04/10 22:42

1. 鬼の目にも涙、かな?
親の愛なんて大人にならなきゃわからないもんなんだよね、さらに自分が親にならなきゃわからないこともある。

特に男の人はこの鬼さんのようにわかりにくい愛の伝え方が多い気はします
私はわかりやすい愛の伝え方が好きですけどね?

…━…━…━…

無料会員登録はコチラ

…━…━…━…