言葉というのはその扱い方ひとつで相手を気持ち良くすることが出来る大きな武器。
この武器を磨き続けサビつかないようにする、それがモテる男の条件ってやつなんだろう。

手入れを怠ってサビさせてはいけない。
もう一度言う、錆びさせてはいけない。

「嘘」

誰もが1度はついた事があるはず。

不倫する人間なんて最低とか言って、まるで自分を聖人君子のように思ってるような人でも、思い返してみれば大なり小なり嘘をついたことがあるはず。

この「嘘」ってやつは極めて扱いが難しい。

扱い方ひとつでユーモアのある素敵な人にもなれれば、信用出来ない人にもなってしまう諸刃の剣。

男ならサラッとユーモラスな嘘で場を和ませたいもんです。

また誰かの「嘘」にもサラッと気の利いたリターンをして、楽しい「冗談」に変えてやれる男でありたいもんです。

この正月に僕は昔の同級生と会った。
中には成人式以来の再会となる奴もいる。

旧友との再会を楽しんでいる時、僕はふとある事に気付いた。

「そう言えばさ、今日M川(エムカワ)は来ないの？」
「場所と時間は伝えてんけど、なんか予定があって参加は無理らしい。」


彼はクラスの人気者で中学生の時、担任から棒でお尻をパシーンと叩かれるという通称ケツバンという罰を受けた直後、

「・・・っ！
香ばしい！！」

という名言を残してから、そのイニシャルと掛けてエムカワと呼ばれている。
彼はとてもスマートで頭も良く発言に説得力があり頼りになる奴だ。


「そっかー、久々に会いたかったのになぁ。」

「てかさぁ、あいつホンマに予定あって無理なんかな？
・・・たまに嘘つくからなぁ、あいつ」


そう、エムカワはたまに嘘をつき、僕らを驚かせて楽しませてくれる「嘘つき」だ。

その中には冗談なのかどうか確認せず曖昧なまま時間が過ぎていった「嘘」もある。

友達だから良いが、彼に騙されて嫌な思いをした女の子なんかもいたかもしれない。
悪い男だ、多分。

僕の中にはずっと胸に秘めてる後悔の念がある。

昔エムカワがサラッとついた嘘が、まだ幼い僕にとっては難易度が高すぎて気の利いたリターンが出来なかったのだ。

大人になりコミュニケーションの大切さを学んだ今の僕なら気の利いた返しが出来るのだろうか。


まだエムカワがエムカワと呼ばれる前、小学校3年の7月の事だ。

その日の体育はプールの授業だった。
僕らは教室で水着に着替えてプールに移動するという流れだったと思う。

いつものように教室で水着に着替えている時、誰かが言った。

「あー、○川くんのパンツに何か付いてる～！」

近くで着替えていた僕にもハッキリ見えた。

白ブリーフの内側中央付近に1×1センチほどの大きさの茶色いものがカピカピに固まってこびりついていた。

今なら分かる。
紛れもなくあれはウ○コだ。

無邪気な声により窮地に立たされたエムカワ。

人間とは窮地に立たされて初めてそのポテンシャルが試されるものだ。

エムカワは心なしか遠い目をしてよく通る声でハッキリと答えた。

「ああ、これなぁ。

これ ・・・ サビや。

錆びてるわ。」

・・・サビ。
いや、んなわけない！！

だが低学年にはまだ難易度の高い「錆び」という言葉の妙な説得力に僕らは

「お、おう・・・」

などと何の面白みもないリターンをするしかなかった。

あの頃、僕らに気の利いたリターンが出来ていれば、彼の「嘘」を「冗談」に代えてやる事が出来ていたのでは無いだろうか。

「嘘つき」という僕らのエムカワのイメージは、気の利かないリターンを繰り返した僕らが作り上げた物なのではないか。


長年の付き合いの友達と新年から酒を飲み交わしながら、ふとそんな事を考えていた。
ここにエムカワが来ていればそんな昔話もしたかったな～。

とそこに見覚えのある男が現れた。
え？なんで？
エムカワだ！

友「おー、久しぶり！
でもお前今日参加無理って言ってたのに」

M「あ、あれね、驚かせよと思って」

まったく相変わらず嘘つきなやつだ。

そして僕はエムカワにあの話をしてみた。
彼は昔と変わらない遠い目をしてハッキリと答えた。

M「いや～、マジで？そんな事あったっけ？
わりぃ、覚えてないわぁ。」

嘘の上手いエムカワの事だ。
事実は分からない。

少し大人になった僕のリターンは相変わらず錆び付いたままだろうか。

僕「そかー、残念！
お前のあの 冗談、
めちゃオモロかったのになぁ」