平成版 参勤交代
40代前半  大阪府
2017/01/19 21:20
平成版 参勤交代
「やれやれ、また来ましたか」

村上春樹の小説の主人公なら、
こんな感じのセリフを言うのだろうか。

僕は声を大にして言いたい。

もうやめません?東西論争。

関東と関西、東京と大阪。
おめーらさ、いつまでやってんの?
って感じなんですよ。

うどんの出汁がどーこー
標準語の男がキモイどーこー

昔の「関所より東だ西だ」って今の僕らには微塵も関係ない。

大阪人2人いたって漫才は始まらない。
親切に道を教えてくれる東京人もいる。

うちの嫁さん東京の人。
僕は大阪の人。
相性は悪い、それは認める。
でもそれと出身地なんて関係ない、多分。

嫁「関西の笑いってさー面白くないよね~

いやいや、それは違うぞ!
なに関西分かった顔してんの?

君が今見てる人はね
サバンナの八木さんって人なの!!

「ビジネスツマラナイ」してる人なの!
ブラジルには聞こえてないの!

こんな感じの日々だ。

平和と平等を追求し、世界は1つだと叫ぶ僕にとって、昔の関所の名残はどうも納得できない。
フラットに考えよーぜ、皆の衆。


そんな僕も年に1回東京の嫁の実家へ行くと言う
「平成の参勤交代」
とでも呼ぶべき謎の慣習により、
21世紀の「目には見えない関所」に悩まされる。

嫁の父親、僕にとっての義理の父。
彼は僕なんかと違って日本で1番有名な某大学を卒業し、誰でも知ってる大きな銀行に勤めていたエリートだ。
当然話の内容も堅い。
カッチカチやぞ!

食事の時、僕と義父との会話は主に歴史の話だ。
歴史と言うジャンルが僕と彼との最大公約数。

だが焼肉を食いながら徳川綱吉と柳沢吉保の円滑な関係性の話などしたくない。
犬の話より僕は牛が食いたいのだ。

そして恐ろしい事にその東京人は時としてこういうムチャ振りをする。

義父「何か面白い話してよ」

僕は村上春樹の主人公風に、こう思う。

「やれやれ、また来ましたか。」

なに?
大阪人だから面白い話ぐらい出来るっしょ?
舐められたもんだ。
そんなカジュアルな挑発に乗ってラリーしてあげるほど人間出来てないですよオオサカジン。

でもね、あなた。
僕が丸腰で関所を越え、花の都大東京で
「いやぁ、あはは・・・」
などと気持ち悪い愛想笑いをするとでも?

この日のために温めておいたのですよ。
そして左脇腹の鞘の中に忍ばせているのです、
とっておきの懐刀をね!

義父「何か面白い話してよ」

僕「高校の修学旅行の時、夕食後にサプライズの劇をしたんですよ~



この「間」というわずかな時間による効果を関所の西の者は心得ている。

僕は間髪入れずにそっと刀に手を伸ばした。
このボロボロの刀だって磨けばあんたを切れるんだぜ?
堺の刃物舐めんなよ!
カッチカチやぞ!

僕が鞘から取り出した面白い話の中身はこうだ。


僕らは高校の修学旅行で
夕食後に簡単なサプライズの劇をした。
時代劇と現代劇を交えたカオスな設定の劇で、
担任の風貌に似た格好の主人公役が悪者を刀で斬って姫を守る。

ペラッペラの内容だ。

担任をモチーフにした主人公が決めゼリフとして、
姫様に担任の口グセ
「誰にも内緒だぞ~?」
のモノマネを披露する、と言う内容だ。

しかし僕らは関所の西の者。
そこにある笑いのエッセンスを加えた。

サプライズで担任を悪者の斬られ役として舞台に上げたのだ。

担任が斬られた時にズラが取れて
ハゲた頭が出て来ると言う古典的な仕掛け、
まさにこれぞクラシックだ。
突然の僕らのサプライズに気を良くした担任はこの大役を引き受けてくれた。

しかしここにもスプーン1杯分の毒を忍ばせてある。

生徒全員が知る暗黙の噂

うちの担任は普段からズラなのだ。

冷静に考えてみると担任の頭上には

ハゲ頭

普段着用のズラ

舞台で露出されるハゲズラ

舞台で取れる用のズラ

この4段活用が適用される。

舞台に登場した担任の異常に膨れ上がった頭に拍手喝采のオーディエンス。
なぜウケているのかイマイチ分からないけど嬉しそうな担任。

だが僕らの淡い期待も虚しく、
先生は時折怪しい動きを見せつつも
とうとう本物のズラが落ちることはなかった。

劇は無事終了し、僕らの修学旅行も幕を閉じた。
そして数ヶ月後、僕らは卒業し学び舎を去った。

手元に卒業アルバムと卒業文集という思い出を携えて。

3年間ズラの秘密を話さず、
本来の姿を見せなかった先生。

「誰にも内緒だぞ~?」が口グセで
モノマネされ続けた先生。

彼は卒業文集で僕らにこんなメッセージを残していた。

「常に誠実であれ」


・・・なんでやねーん!

って話。


嫁の父親は笑みを浮かべながら話を聞き、時折
「クフフッ」
などと恥ずかしげもなく笑っていた。
特にズラの4段活用辺りは彼の明晰な頭脳により膨らんだイマジネーションのトラップに押し出された笑い声が漏れていたほどである。


圧勝

実に気分がいい。



「大阪の皆さん、聞こえますかー?」
とでも叫びたい気分だ。

世界は1つだ。
21世紀に関所はいらない。

どうです?お義父さん。
大阪の実力、目の当たりにした気分は?

しかし目の前の嫁の父親から笑みは消えていた。
そして村上春樹の小説の嫌なヤツ風に
ゆっくりと僕に言ったのだ。


義父「先生を馬鹿にしちゃいかん」



・・・なんやそれーーーっ!!



前略 豊臣秀吉様

江戸は怖い街です。
刃物の街、堺の刀でも奴を仕留められませんでした。
徳川幕府亡き今も参勤交代というシステムは残り、西の者は辛い思いをしております。
きっと僕は来年も参勤交代で上京し、また面白い話を求められ、心の中で村上春樹風に同じことを言うのでしょう。

「やれやれ、また来ましたか」

追伸 やっぱり甘い卵焼きは好きになれません。
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コメント

40代前半  大阪府

2017/01/23 19:48

4.  >>3 目黒碑文谷倶楽部wさん
コメントありがとうございます^_^
そうなんですよ!
まさにそれ!!
その人にどのタイミングでどの話をチョイスするかってところから戦いはすでに始まってるんですよね 笑
この話の時もいくつかの刀はストックして臨んだんですが結果まさかのバッドチョイス(; ̄ェ ̄)
次回こそは!!
でも嫁の実家・・・いきたくない。

30代半ば  神奈川県

2017/01/23 19:18

3. わたしも 笑い話の ネタ帳を
脳内に しのばせておりますが 笑のツボっ
ちゅーもんが 人それぞれやから その人に
ツボる 話を 引き出してくんのが
あんがい めんどくさい。笑
ところで、わたしは 関西人やけど
うちの オカンが、甘い卵焼きを 作る
人やったから 卵焼きは 甘くないと嫌なの
です。 笑

40代前半  大阪府

2017/01/21 16:17

2.  >>1 美月さん
コメントありがとうございます^_^
確かにオチが伝わりにくかったりしますよね。
面白い話してって投げっ放しで回収してくれないと面白いものも面白くなくなっちゃいます。
そして何より卵焼きはやっぱ出汁が1番!

40代前半  東京都

2017/01/21 14:16

1. 私も甘い玉子焼きは苦手。
だし巻き玉子で育ちました。
私自身仕事がら東京の人との接点が多く
やはり同じように求められます。
「なんか面白い話をしてよ」
ネタはたくさん持ってますけど
やはりオチを理解されないことが多いかなぁ。

追伸
ただただ頑張ってください!
と、エールを送ります。

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