不器用なオトコ
40代前半  大阪府
2017/04/03 22:08
不器用なオトコ
今年の桜は開花が遅れているらしい。
でもヤキモキする必要は無い。
僕は思うんです。
ゆっくりでもキレイに咲いてくれるのはありがたい事なんだって。



「来週から新卒入ってくるからよろしく。
あ、お前が教育担当ね」

もう何年も前の話になる。
僕が新卒者の教育担当になった時の話だ。
新入社員が入ってくるこの時期によくある話だが、中途入社の僕はこの時まだ入社して半年。

もともとギターを教えていたという事もあって、教育担当ってのも苦手意識は特別ない。
ただギター講師というのは教える対象があくまで「お客様」であるのに対し、新人教育というのは新たな仲間の迎え入れである。
僕にとっても気合いが入る。

僕が担当する新卒はどうやら高卒の若者らしい。
ギター講師時代「プロ目指してます!」と言い切る65歳初心者といった厄介な「お客様」さえも丁寧に教えていた僕にとっては18歳の若者に仕事を教えるなんて楽勝のはず。

「分かりました」
僕は快諾した。



18か・・・当時の僕のちょうど一回り下だ。
きっと爽やかな笑顔で今風なファッションを決め込み会社に新鮮な風を吹かせてくれるのだろう。

それよりもだ。
自分が18歳の頃、一回り上の男をどう思っていただろう?
「セカンドバッグ片手にファッション性の欠片も感じられないオッサン」

そもそもそんなやつの言う事を当時の僕は受け入れただろうかと自問すると、答えはNOだ。

僕は決めた。
若者の話も理解して、若者がギャップを感じる事なく着いて行きたくなるようなカッコいい先輩になろう。そしてゆっくりと彼に大人への階段を用意してあげて仕事だけでなく人間として成長させてやろう。

まてよ?
そんな優しくカッコいい先輩になると若い女の子達が俺に惚れちゃうんじゃない?
うへへへ、参ったなぁ~^ ^
会社の子とは恋愛しない主義なのに~。
いやぁ参った参った。。。

などと妄想していた。

そして4月になり僕が担当についた18歳が出社してきた。

「木こり」

僕の持つ爽やかな18歳ってイメージとはかけ離れた
「ぽっちゃりでおっとりなヒゲの濃い山オヤジ」
が目の前に現れた。

彼の名は純也。
名前のままピュアな男だ。
もちろん童貞。
平成生まれとは思えない「昭和感」を身にまとっている。
田中邦衛を愛する僕は彼をジュンと呼ぶことにした。

僕「ジュンさぁ、部活何やってたん?」
純「・・柔道部っす・・・」
僕「そーなんや!もうやってないの?」
純「・・・辞めたっす・・・」

僕「ジュン出身どこ?」
純「・・静岡っす・・・」
僕「周りって何か有名なとこある?」
純「・・・茶畑っす・・・」

皆さんお気づきだろうか。

彼は何を聞いても単語プラス「っす」でしか返せない恐ろしいコミュ力の持ち主なのだ。
それ以前に自分から話す事もなく、こちらが話しかけないと永遠に無言が続くという地獄絵図。
仕事以前に会話にならない。

僕は仕事よりもまずコミュニケーション力を磨くべきであることを目の前の「山オヤジ」に伝えた。

ジュン「自分・・・不器用なもんで」

ぜ・・・絶対こいつ18じゃないよ!
昭和知ってるって!!
高倉健好きだって!!

そんな訳で僕は仕事を教える前にジュンと仲良くなる事から着手した。
彼の会話スキルの低さとは別に、彼もきっと新しい環境に対峙して緊張しているのだ。
良い人間関係の構築は必ず良い仕事に繋がるはずだ。

ここで皆さんにお教えしたい。
古今東西問わず、男同士が仲良くなれる魔法の言葉がある。

僕は警戒しあった男同士がそのバリアーを緩めるに最適な、とっておきの切り札を出した。

僕「ジュンってさ、
エロビデオ何系が好きなん?」

なごみ

男性ならお分かりだろう。
警戒状態でこの質問を差し出された時のちょっとした和み。
僕は緊張緩和効果を期待していた。

ジュン「・・ビデオ?って・・・
エロ動画ですか?」

くっ・・・失態・・・なんてことだ。
山オヤジと僕の間にちょっとしたジェネレーションギャップを感じる。
彼はVHSを知らないらしい。

しかしこの質問の効果はあったようだ。
彼はいつになく饒舌になっている。
ジュンは続けた。

「強いて言えば・・・SOBITO系っす」

ジェネレーションギャップ

恐れていた展開だ。

なんだ?ソビト系って。
ロシア女性とかそーゆー感じか?
この山オヤジ、ガラにもなく横文字を出してきやがったぜ!

彼の緊張緩和は良いが、今度は逆に僕が追い込まれている。

僕「ああ、そっち系ね。
オッケーオッケー・・・

若者世代ともギャップを感じる事のないカッコいい先輩になる・・・

神様、出来心です。
つい「ああ、ソビト系ね!ふーん、そーゆーの好きなんだ」的なしったかぶりをしてしまった僕は小さな人間です。

その後、無口になった僕は仕事も手に付かず
「ジュンを夢中にさせるソビト系とは何か」
に興味が湧いた。

ソビトめ!!
必ず突き止めてやるぞ
じっちゃんの名にかけて!!

しかしどれだけ検索してもそれらしきエロ用語は出てこない。

うーむ

・・・え?・・・
もしかして・・・

僕はあるヒラメキをもとに恐る恐るジュンに質問した。

「ジュン悪いんやけど くろうと って漢字で書いてみて?」

ペンを走らせたジュンのメモ帳には超絶に下手な字でこう書いてある。

「黒人」

・・・謎は全て解けた。

我々は恐ろしいミスをおかしていたのですよ。

ソビトって・・・

素人かーーいっ!!!

彼はSOBITOならぬ素人系エロビデオを好む18歳だったのだ。

その後も色々苦労はあったけど、そうこうしてるうちに仲間意識は芽生え、不器用なジュンも周りに馴染む事ができた。
そして僕はとてもとてもジュンを可愛がった。

時間はかかったがジュンは僕に怒られ続けながらも辞める事なく一人前に成長してくれた。

そして今年もまた新卒が入社してくる時期になった。今年はジュンが初めて教育担当をすることになっている。

僕はジュンに言った。
「お前さぁ、ちゃんと教育出来るんかー?」

ジュンは少しはにかんだ顔で答えた。
「いやぁ、自分・・・不器用なもんで・・」


ゆっくりでも良い。
周りの子達より時間はかかったけど君が愚直に頑張ってくれたように、新しく仲間になる新入社員にも君なら良いお手本になれると僕は信じている。

今年の桜は開花が遅れているらしい。
でもヤキモキする必要は無い。
僕は思うんです。
ゆっくりでもキレイに咲いてくれるのはありがたい事なんだってね。
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コメント

40代前半  大阪府

2018/03/07 1:30

6.  >>5 かずさん
残念ながらジュンは雪のような白い肌を持ちつつも北国育ちではなく、温暖な茶畑の真ん中で育ったんですよねぇ

離れたとは言え、いつまでたっても気になる僕にとっての一番弟子です。ジュンの風俗デビュー話もなかなか面白いのでいつか書きますね~!
コメントありがとうございました

50代前半  京都府

2018/03/07 0:09

5. じゅんくんは富良野に帰ったんじゃないんですね(*´-`)w
エロビデオと呼ぶ世代には大共感致しました!w

40代前半  大阪府

2017/09/19 14:38

4.  >>3 ポコさん
この日記を書いた後GReeeeNがsobitoって曲を出したのでパクリにならなくて良かったと安心したのを思い出しました。
ジュンみたいなやつやっぱ居るもんなんですね!心中お察しします。
実はうちのジュンは先月転勤で静岡に帰ったんです。居なくなれば結構寂しいもんですよ!

ポコ[退]
30代後半  沖縄県

2017/09/19 12:59

3. ソビト笑いました。ジュンくんと被る人居ますね。奇しくも同じ木こり系です。その人も「っす」系。相槌も「ほんとそうっすよね~」しか言わないし、意味不明なタイミングで使うので相槌になってない。
「あのさ相談しても良いかな?」
「ほんとそうっすよね」
相談する気 終了!

40代前半  大阪府

2017/04/07 15:46

2.  >>1 凛さん
朝から長々としたくだらない話をお読みいただいてありがとうございます 笑
今の若い子ら「エロビデオ」って言わないんですよねぇ( ̄O ̄;)
これはホンマショックでした!!
GENBITO派・・・
凛さんの好みは・・・ベルギー系??笑

40代半ば  大阪府

2017/04/07 6:59

1. 朝から笑わせてもらいました。VHSのくだりが泣かせる。゚(゚´ω`゚)゚。
SOBITOをロシア系ってのが最高にツボに入りました。
そのセンス嫌いじゃない(笑)
私はGENBITO派

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