自分の心に気づく
30代後半  埼玉県
2021/01/02 3:38
自分の心に気づく



帰省、という行為と付き合い始めて2年が過ぎた 

最初は旅行の逆の行為と考えていたのだけれど、飛行機や夜行バスの便を予約し、コロナ禍の為にホテルに寝泊まりすれば、旅行と何ら変わりのない行為としか考えられなくなった

それに生活拠点を大阪に移して以来、帰省以外に「旅行」をしたいという気が起こらなくなった 理由は簡単だ これまで縁遠かった近畿一円にアクセスが容易くなったが為に、日常的に旅行気分を味わえているからだ

この度の帰省は特異な体験となった 自分の親の他には、もう殆ど親戚付き合いに近い十代の頃お世話になった嘗ての上司との計二名にしか会わなかった 普段であれば何件も飲み屋をハシゴするから、たくさんの人との再会がある 高校時代の友達とその家族や、嘗ての同僚、ある史料館や染物店の老夫婦など、ここにはとても挙げきれない 故郷はいつも僕を大歓迎してくれる場所だった

新型コロナによるパンデミックはそうした当たり前を粉砕した



とはいえ、ウイルスに怨みはない 人と会えないことで、必然的に自分と向き合う濃密な旅を味わうことができたからだ

今回の帰省に於いて、僕は大阪から北関東の小都市に来た異邦人だった 誰もが初めて会う人だった

居酒屋に入る 店にしてみれば見知らぬ客だ しかし歓迎される どうやらまだ新しい店だから誰でも大歓迎なのだ どんなに新型コロナ禍が恐ろしくとも、商売が成り立たなければ生活が立ち行かない それは誰もが同じだ 現に僕らは、危険を犯しながらも可能な限り普段通りの生活を続けている


長年訪ねることができなかった母校にも来れた 来れたといっても夜遅く閉まった門の前に立っただけだ しかし思い出は限りなく溢れかえってきた 置き忘れてきた半身を取り戻したかのようだった


またこの旅の途上、思いがけなく「人間の性は悪か善か」という、昔の自分にとっての重大テーマとも向き合う機会を得た 既に乗り越えた問題となって久しかったが、意外に楽しかった


僕にとって人間は明らかに悪の存在である 世の大半の人間は、倫理道徳、物事や自分の正しさなどはどうでもよい人間だ であるから、自分が得をすることにしか興味がない人間によって社会は運営されている その恩恵を受けている僕自身も紛れもない悪の存在である 僕は人間の悪に対して根深い憎しみを抱いている 同時にそれを許している そうすることによって自分の心の均衡を得ている これはもう治療不可能らしい

ただし、人生の途上に出会う人々を憎んでいるかといったら憎んでいない 個人に対して憎しみを抱くことは考えられないくらいだ 自分に対しておかしいと思う点だ


人間は元来不完全であり、それが故に価値があるのだろう その不完全さは治療されるべき故障ではなく、我々の性であると考える

僕は人間の個性や多様性を楽しみはするが、信用していない 本当に才能のある人や信念のある人なんてのは非常に稀少な存在であるからだ 人間は腹一杯食って寝て交尾すれば満足する動物だ 尤も、そういう画一的な動物性の強い人間とはあまり深い関係を持つことはない


一言でいうと、僕は人間が大嫌いなのだ
けれども幸いなことに人間は一面的な存在ではない そしてまだ人間を知り尽くしていない

たやすく人を好きになれないのは、心の底に憎しみが渦巻いているからだと自分でも思っている 世の大半の人はそうではない だから欠陥があるのは彼らではなく僕である



今僕は夜行バスのなか、暗闇に包まれながらこれを書いている

眠れない夜とは実に精神の害毒だ








コメントする

…━…━…━…

無料会員登録はコチラ

…━…━…━…