やあ、久しぶりではないか

そんなにしょげた顔して一体どうした?




今夜は心地の良い風だ

ベランダに出て少し話をしようか





今日はとても辛い一日だったようだね

君の顔を見ればわかる




今、君は心が疲れている

これまでは、居酒屋に入ったり、マッサージを受けたりして息抜きしてきたらしいな


けれども、そんな余力もないほど今日は疲れてしまったんだね




君は頑張り過ぎてしまったんだ

誰よりも努力しているのに、周囲からは全く認められていなかった

それがすごく悔しかったんだろう?

その気持ちは俺にもわかる





でも、君は本当に成長した

自分でもそれを強く感じているだろう

だからこそ、余計に悔しいのだな




君は今までこんな話を誰とも、してこなかった


なぜならいつもひとりぼっちだったから


もし傍らに恋人や、気の置けない友達がいてくれたら、話しただろうか


そんな些細なこと、と思ってはいけない

そんな些細なことを、これまで君はいつもひとりで受け止めて生きてきたんだ


母親にも、友達にも、ほんの僅かのあいだ傍にいた恋人にも、誰にも



君は心をさらさなかった


誰かと一緒に笑っていても

その仮面の下で君はいつも泣いていたんだ





そろそろ俺は行く


君はこのまま

少し風に吹かれて星を眺めているといい


涙が頬を伝うまで

風に吹かれているといい





時には昔のことを思い出せ




遠い春の桜の下

初めて出会った日のことなんかさ