君に幸あれ
行きつけにしているヘッドスパにとても若くて可愛い人がいる
初めて会ったとき、彼女は十九歳だった
年の割に接客は洗練されていて言葉遣いも正しく、一通りのビジネスマナーを学んでいるように感じた
訊けばエステの専門学校に通いながら空き時間に勤めているという 若者らしからぬ立ち居振る舞いは見ていて快いとともに、どこか痛々しかった 花のほころびに似た笑顔が幼さを残していた
何度も会いたくなる魅力ある人というのは、決して世に溢れているわけではない 他人がよいと言うものを必ずしもよいとは思わないし、その逆も然りである
たとい如何なる場所にあろうとも、素のままに輝ける人もあれば、然るべき場所に出会うべく彷徨い移ろう人もある 今日は彼が去り、明日は吾が去る この世のものは常に留まることを知らず 或いは水、或いは雲、或いは風のように、人は遠い旅に彷徨いながら、死生の間に出会いと別れを繰り返して往く
ある日、彼女が近く二十歳を迎えることを聞いた その次に担当してもらった際に「そういえば誕生日は」と訊いたら昨日といった その日はそのまま帰った
一週間後、パスケースを贈った 革の色にだいぶ迷って桜色にした 好みの色を知らないものの、他に似合う色は思い付かなかった 幸い一番好きな色だというから安堵した 革製品は頑丈であるから、その気になれば一生でも使える それは持ち主次第である
もうじき私はこの地を離れる
再び彼女の勤める店に来ることがあるかどうかは分からない
仮に来たとしてもその頃には彼女はもういない筈だ
二度と会うことはなかろう
子どもたちや若者は本来国家の宝である
いまこの日本は国家としての体を崩している そんな当たり前のことをすっかり忘れた老人たちが彼らの未来を蝕みつつ、私腹を肥やしている現状だ
それもこれも、民主主義の本質を知らない国民の無知に原因があるのだけれど、私はそれを放置できない 生きることに善なるものが失われたままでは、国家の衰微は急速である
ありがとう
君の笑顔に一時救われた
いつまでも可憐な笑顔を忘れないでね
君に幸あれ