続 転居後のこと
30代後半  埼玉県
2021/09/18 9:32
続 転居後のこと





主題を転居後としながら大阪でのことを多く書きすぎてしまったので、今回は主として祖国水戸での新生活を記すとする


実家には戻らず駅の近くに部屋を借りることにした 母の介護認定に影響を及ぼす懸念があることと、増え過ぎた蔵書を置く場所が必要だったからだ

最寄駅の南に桜並木の大通りがある この頃は秋らしい色に葉を染め始めている 四月にはきっと美しい花を咲かせてくれることだろう 今の時期には立ち止まる人などいなくとも、春には写真を撮り、見上げては愛惜をほしいままにし、溜め息を吐き、密かに涙を浮かべる人もあるかもしれない 花が散り若葉の色がくすむ頃になると立ち止まる人もなく、誰もかも桜のことなど忘れ果ててしまうに違いない 非情と言おうか身勝手と言うべきかは知らないが、それがつまり世間並みの桜に対する認識ということなのだろう

並木を抜けて横断歩道を渡り、住宅地のなかに分け入って五分も歩けば自宅に着く 築年数は古いものの、新居をここに決めたのはいくつかの巡り合わせに由る


まずは駅から徒歩圏内であることが条件であった 以前勤めていた会社に戻ることと相成り、電車通勤をすることにした 都会暮らしに慣れてしまうと通勤時に運転をする気力が全く湧かなかった もともと自動車の運転が苦手である為にバイク通勤をすることが多かったのだけれども、年齢のせいだろうか、渋滞する道路の路肩をすり抜けるよりは席に座って15分でもいいから本を読みたかった


築年数の古さを除けば悉く好条件に恵まれた 閑静な立地と都市ガス、間取り、家賃二万五千円、何より昔郵便局に勤めていた頃、班の配達担当区域だったから
気心が知れていた ここは3丁目であり、2丁目の配達を私が担当していた 直接にすべてを知っているよりかは、様子を伝え聞くくらいの場所が丁度良かった そうはいっても私が夜間高校時代の話だからもう直に20年前にもなろうという昔の話だ 町の様相は基本的に変わらずとも、細かな変化は所々に見られて当時を懐かしく思い出させた


数ある条件を満たしていた物件は少数ながら他にもあった 今の部屋に決めた最大の決め手は、実はここからの眺めの良さだった 部屋の眺望は私にとって重要だ 人の住む部屋はその人の思考の縮図とも言うべきものであり、部屋のなかにいるということ自体が閉鎖的な行為であるように思う 無論、創作や学究に関しては自己の深部に達せざるを得ない境地も必要だから、自分にとって居心地のよい部屋を持つことも重要かと思うのであるが、それは結局自分という閉鎖的な枠組みを越えていくことがない それではどうすればよいかと言えば、遠くを見る、景色を眺めるというのが簡便かと思う すなわち、眺望のよい部屋に住むことだ 自分の部屋に閉じ籠もっていると、そこには自分に関わりの強いものや自分の好ましいものしか存在しなくなる 何より室内に自分より大きなものを見ることがあまりない すると必然、視野は狭まるのも自然の勢いであろう



起床して味噌汁と黒文字茶を飲む 支度して駅まで10分歩く 電車に乗る 降りる 職場まで10分歩く
帰るときはその逆という単調な日々の繰り返しだが、今の私にはその単調さが必要だ 金曜日の夜と日曜日は実家の母と食事を共にし、庭木の手入れや掃除をし、買い出しをする その他の空いた時間に古典と小説を読む 時には自分の文章を書くという具合だ 着流しの下駄履きで近所のカフェに行くこともある 越してきてまだ日が浅いせいか奇異な視線を感じる 私がこの町に馴染むよりも、着物文化が町に根付くのが先か、今はそれを静観しつつ日々を送っている 先日は町内会に入会の意思を伝えた














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