このボロいスーツを着ていると、あの子の笑顔を思い出す
この前、本社での会議前に、係長から
「なんで本社に来る時位マトモなスーツ着てこれないかな…」
と嫌みを言われた。
ムカついたので、
「震災ん時、部下を差し置いて真っ先に家に逃げ帰った分際で偉そうに。女々しい奴め」 とか呟いたら
隣にいた震災当日、津波で流されたり、バットで頭を殴られたりしながら生き延びたオッサンが飲んでるホットコーヒーを吹き出して 喉に詰まらせた。
俺のスーツにオッサンの吹き出したコーヒーが少しかかった。
また汚くなるだろって。
オレは震災発生後、会社と被災地を往復してた。
スーツ姿で、行方不明者を探したり、家財道具の片付けやらを手伝っていた。
そんな無茶してたらスーツもボロボロになるわな
でも、このボロいスーツを着ると
ある避難所にいた一人の子供の笑顔を思い出せる
その避難所へ、オレは近所の駄菓子屋で買った駄菓子や風船などを買い占めて持って行った。
でも避難所は全国からの援助物資で溢れかえっていて、うまい棒とか水風船なんかを大量に持っていった事が恥ずかしくなって、車に積んで持ち帰ろうとしていた。
その時、誰かが手を握った小さい手が…
幼稚園か小学校低学年の男の子だった。
何度話しかけても一切返答がない。
近くにいた小学校六年生位の少年がコソッと教えてくれた
「その子は、津波で一瞬にして両親を失った。しかも目の前で…」
それからオレは会社から出来るだけ避難所へ通う
子供の頃のオレとダブって見えた
小学校に入学したオレは担任の女教師から意味なく殴られたり蹴られたりして、一切喋らない子供だった
夏、避難所の子供達とザリガニを取りにいった。
子供達を連れて歩いていると草むらから「ざざっ」
とヘビが出てきた。
子供達はパニック状態だ
気が付くと、その子を抱っこして初めてしゃべった
「あのヘビ毒あるの?」
オレの粘り勝ちだ
それからは、徐々に口数が増えて 笑顔も見せるようになった
避難所が閉鎖され、「今頃は、おじさんの家でぐっすり寝てるんだろうなあ。」
と、おセンチな気分になるから、当分このボロいスーツしか着ないのだよ
雪が降ってきたな。
また会社のソファーで寝よう。っと( ̄□ ̄;)!!