不思議なハムチーズトースト
40代後半  愛知県
2020/11/04 18:06
不思議なハムチーズトースト
今朝のこと、目的地に向かう前にモーニングセットでも食べようと思い、駅の構内にあるカフェ&バーの「PRONTO」へと立ち寄った。


ここは先に、注文と同時にお会計を済ませるシステムとなっているので、レジカウンターへ並び順番を待つ。


私の前には、「ほな、どれにしようかしら……」とメニュー選びに頭を悩ます一人の中年女性がいた。


言葉遣いから察するに、どうやら関西のオバチャンのようだ。


迷った末に、そのオバチャンは「トーストセット」を注文した。


ちなみにモーニングセットは、以下の3種類。

●モーニングパンセット
●トーストセット
●ハムチーズトーストセット


レジカウンターに置かれたメニュー表を私がながめていると、先ほどのオバチャンが再度やって来て、「なあ、トーストまだ出来んか?」と、女性店員に尋ねる。


オバチャンが注文してから、まだ1分と経ってはいない。


「オバチャン、そら無理やろ!」と心の内でツッコミを入れる。


さらにオバチャンは女性店員に向かい次のように言う。


「トーストやけど、お持ち帰りって出来ひん?9時13分発の電車に乗らなあかんねん。あんた、間に合うか?トーストまだ焼けてへんやろ」と……。


私は、店内の壁時計をチラリと見て時間を確認する。


現在の時刻は、9時10分である。


このトーストセットには、トースト二切れとサラダ、そしてヨーグルトか茹で卵のどちらかが付く。


それほどボリュームのあるメニューではないにしろ、駅のホームまで行くことを考えると、オバチャンに残された時間はほぼ2分程度のものであろう。


わずか2分足らずで、この三品と飲み物をたいらげることは、まず不可能に近い。


「お前は、フードファイターか!」とこのオバチャンに、本日2度目のツッコミを入れる……心の中で。


そんなに切迫している状況下で、なぜトーストセットなんぞを注文したのであろうか?謎である……。


無理難題を持ち込まれた女性店員は、少しも慌てる素振りを見せずに、こう言った。


「お急ぎでしたら、もう冷めてはいますが、こちらに焼き上がったトーストがございますので、こちらをお持ち帰りください」と。


女性店員が手のひらで指し示した竹あみの小さなカゴの中には、ラップにくるまれたトーストが入っていた。


「もうトーストだけでかまへんから、ほなコレ貰っとくで」と、トーストを掴み取ったオバチャンは、急いで自分の席へと戻っていく。


オバチャンは立ったままの状態で、残りのアイスコーヒーを飲み干し、あわただしく店内を出ていった。


走り去ったオバチャンを見送ったあと私は、3種類のモーニングセットの中で一番値のはるハムチーズトーストセットをたのんだ。


ソファー席に腰を下ろした私は、ハムチーズトーストセットが来るのを、アイスコーヒーを飲みながら待つ。


数分後、私の席にセットメニューが運ばれてきた。


テーブルに置かれたメニューを見て、私の頭の中に、疑問符が幾つも浮かぶ。


白いお皿に乗った品を一つずつ確認していく。


まずはミニサラダ……ヨシ!

茹で卵ではなくヨーグルトをチョイスしたので、ヨーグルトはある……ヨシ!


コンガリと焼けたトーストとバターがある……いやいや!よくない、よくない!


トーストの上に、ハムとチーズが乗っていないではないか!


コレってもしかして、あの関西のオバチャンが注文して、キャンセルし忘れたトーストセットじゃないのかっ!?


私はレジカウンターへ行き、「今持ってきてもらったのって、トーストセットじゃないですか?」と、女性店員にうかがってみる。


私のテーブルに置かれているセットメニューを目にした女性店員は、驚きの表情となる。


「申し訳ございません!今すぐ作りかえますので、もう少々お待ちください」と頭を下げる女性店員。


時間的に余裕のあった私は、「そんなに急いではいないので、ゆっくりでいいですよ」と言い、自分の席へと戻っていく。


よほど慌てて作り直したのであろう、運ばれてきたハムチーズトーストは、よく焼けてはいなかった……。


自分が立ち去った後でさえ、周りに迷惑を及ぼすとは……関西のオバチャン、恐るべしである!





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