昔の旅籠で茶道体験 2
40代後半  愛知県
2020/11/09 21:03
昔の旅籠で茶道体験 2
「旅籠で茶道」と言われても、今一つピンとこないかもしれないが、実はそうでもない。


現在の大橋屋には存在しないのだが、その昔ここの二階の一室には、小さな茶室があったそうだ。


江戸時代の大橋屋(その当時の屋号は鯉屋)は、客室を多く備えた大規模な宿泊施設、いわゆる大旅籠(おおはたご)であった。


そうなると、鯉屋の主人はそこそこの資産家であったと思う。


資産家であれば、男の嗜みの一つとしてあるいは道楽の一つとして、茶の湯を学んでいてもおかしくはない。


よって、この旧旅籠屋と茶道とは、それなりに縁もゆかりもあると言うことになる。


今回の「茶道体験」は、所要時間30分程度で、お作法から所作までやさしく学べて、最終的に自分でお薄を点てて飲んでみる、という催しである。


呈茶料を払えば誰でも参加出来る大寄せの茶会には、しばしば伺う事はあるものの、それはあくまでも人様の点てた抹茶を頂くだけの事だ。


茶筅を使ってお茶を点てたことなど一度もない。


「自分で点てたお茶を味わってみるのもちょっと面白いのかなぁ」と思い、この催しに参加してみた。


参加費用を払った私は、大橋屋の一階にある奥座敷へ向かう。


茶席へと早変わりした奥座敷にはすでに、茶道体験希望者が4名居た。


そのメンバー構成は、こうである。


70代ぐらいの小柄なお婆ちゃん、50代前半の男性、40代後半と思われるミニスカのお姉さま、小学3年生ぐらいの女の子、そして私の計5人。


畳の上に敷かれた藍色の毛氈に5名が揃うと、襖の奥から現れたお茶の先生とおぼしき女性が、私達に向けて今回の催しの趣旨を改めて説明してくれる。


「本日は、お茶席での作法や所作を学んでいただきますが、そんなに肩肘張らずに、どうか楽なお心持ちで、お茶をおたのしみ下さい。少し時間が掛かると思いますので、よろしかったら正座ではなく、足をお崩しください」と。


お茶の先生のお言葉に甘えて、私だけは正座から胡座へと座り方を変更する。


「今日は、盆略点前というやり方で、皆様にお茶を点てていただきます」と先生がおっしゃる。


この盆略点前(ぼんりゃくてまえ)とは、必要最小限の茶道具を用いてお茶を点てる、略式点前のことである。


「お辞儀の仕方には三通りあります。一番丁寧なお辞儀を真のお辞儀、その次が行のお辞儀、そして最も簡単なお辞儀を草のお辞儀と言います」、と先生の所作を真似て、私達も三通りのお辞儀をしてみる。


次に先生自らが、盆略点前を披露した。


見事な袱紗(ふくさ)さばきで、茶器の棗(なつめ)や茶杓を浄めたあと、茶筅通しをして、穂先が折れていないかどうかを確認する。


ここまで終わると、私達の膝前に茶碗の乗ったお盆が運ばれてきた。


5人の茶碗は、すべて【三島茶碗】である。


茶碗の中にはすでに、抹茶の粉が入れられている。


お給仕の方々が手分けをして、5人の茶碗の中へ、ポットのお湯を注いでいく。


「茶筅は、右手の親指と人差し指と中指の三本で持ってください。左手を茶碗にそえたら、茶筅を上下に動かし、細かい泡が立つようにして下さい」


先生の指示に従って、シャカシャカと茶筅を動かしてみるが、どうも上手く泡が立たない。


私の右隣に座るミニスカのお姉さまをチラリと見れば、しなやかに手首を動かして、見事な泡を立てている。


それはまるで、カプチーノのようなクリーミーな泡であった。


私の左手に座る小学生の女の子は、たどたどしい手つきで、泡を立てるのに悪戦苦闘している。


私は心の中で、「お嬢ちゃん、そんな拙い茶筅さばきじゃあ、泡なんぞ立たないぜ!」と毒づく。


まことに、イヤなオヤジである。


小学生のお点前を見かねたお給仕の女性が、女の子から茶筅を受け取り、代わりに泡を立ててあげる。


私のお茶にも細かい泡が立ったのだが……ちょっと不安になり、女の子のお茶に泡を立てたお給仕の方に、伺ってみる。


「あの、すみません。一応、泡は立ったんですが、もしこれでダメだったら、代わりに点ててもらえませんか」と、茶筅を差し出す。


私の茶碗の中を覗いたお給仕の女性は「あら、お上手じゃないですか!ちゃんと細かい泡が立ってますよ。これで上等です」と褒めてくれた。


早速、初点前のお薄を頂いてみたが、我ながら美味しく点てられていた。


もっとも今日のお茶は、苦味が少なくて甘みのある西尾産の抹茶だったから、美味しかったのかもしれないが……。


書き忘れていましたが、本日のお菓子は栗きんとん。


お茶席の花は、コバノズイナの照葉(てりは)と、初嵐と言う名前の椿。


とても貴重な体験が出来ました。先生、ありがとうございます!
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