やりすぎパン カレー&ホイップクリーム
一見して、「その組み合わせは、どう考えてもミスマッチでしょう」、と思われる食べ物が世の中には多々ある。
例えば、チョコレートでコーティングした柿の種やポテチ、チーズ入りのナンに蜂蜜をかけたハニーチーズナン、チャーハンにスープを注いだスープチャーハンなどなど。
ミスマッチだと思われるこれらの食品も、食べてみると案外美味しいと言う場合がある。
果たしてこの食べ物は、見た目通りのミスマッチなのか、はたまた意外とイケるのか……?
今回ご紹介するのは、ローソンの新商品で、その名も「やりすぎパン カレー&ホイップクリーム」である。
袋には、「ホイップクリーム攻め」と印字されているが、攻めているのはホイップクリームではなく、ローソンの商品開発部だと思う。
このやりすぎパンは、どのような経緯で誕生したのであろうか?
では今から私の妄想をフル稼働して、やりすぎパン誕生へと至る過程を再現してみたい。
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時刻は現在、21時20分。
ここは、ローソン商品開発部の面々が集う本社ビル内の第二会議室。
今秋、全国の店舗で一斉販売する新作パンの企画会議の真っ最中である。
会議室では、田中部長、鈴木係長、そして入社5年目の佐藤。商品開発部における主要メンバー3名が、丁々発止のやり取りをしている。
佐藤:やっぱり秋の新商品ですから、秋を代表する味覚を使用したいですねえ。
部長:例えば、どんなの?
佐藤:秋と言ったら栗ですよ、栗!
係長:栗かぁ……無難と言えば無難だけど、何とも月並みだねぇ。でも栗だけじゃ、ちょっとインパクトが足らないだろう。
佐藤:もちろん栗だけじゃないです!栗は裏ごしして、栗きんとん風のアンにします。そのアンの中へ、賽の目にしたリンゴのシロップ煮を入れてみましょう。クリとリンゴで「クリリンぱん」なんてのは、どうですか?
係長:なんだ、結局ダジャレじゃねえか!
部長:佐藤、お前さっきもダジャレ言ってなかったか?
佐藤:あら、今頃お気付きで。
係長:確か、こんな事言ってたよなぁ。
「秋と言えば柿、柿と言ったら秋ですよ!まず柿を裏ごしして柿アンを作ります。柿のアンコを挟んだコッペパンの上に、ボジョレー・ヌーボーを加えた酸味のあるジャムを塗ります。柿の上にボジョレー、『柿の上のボジョ』ってどうです?」……あれはダジャレだったの?
部長:「柿の上のボジョ」って……もしかして「崖の上のポニョ」のダジャレなのか?今のクリリンといい、お前はアニオタかっ!もうアニメから離れろ、離れろ!
係長:ダジャレから離れろ、離れろ!
部長:あ~あっ、何か急に腹へってきたなぁ。
係長:部長、そう言えば晩飯まだでしたねえ。
部長:話し合いをしながら食えるもんがいいよな……今晩は俺のオゴりだ、おい佐藤、CoCo壱に電話してカレーを3つ持ってきてもらえ。
CoCo壱のカレーをつつきながら、あれこれと議論する3人。
カレーライスを半分ほど平らげたところで、佐藤はおもむろに立ち上がり、会議室内に備え付けの冷蔵庫へ向かう。
佐藤が冷蔵庫から取り出したものは、カスタードクリームとホイップクリームを注入した、ツインのシュークリームであった。
部長:佐藤、カレー食ってからにしろよ、そのシュークリーム。
係長:そうそう、折角の部長のオゴりだぞ!食後にしろよ、食後に。
佐藤:自分、甘いものには目が無いんですよ。なんせ、苗字が佐藤(=砂糖)って言うぐらいですから。
部長:お前、本当にダジャレが好きだなぁ……。まぁいいや、食いたきゃ食えよ。
佐藤:スイーツだけに、それではお言葉に甘えて……。
佐藤がシュークリームの皮を食い破ると、中からホイップクリームがドロリと流れ出て、食べかけのカレーの上にそのクリームが落下する。
一瞬、唖然とする佐藤。
部長:だから言ったろ、カレー食べてからにしろって。
係長:カレーとホイップクリームかぁ……出来たら別々に食べたいよね。
部長:クリームの落ちた所だけ、上手にすくって捨てたらどうだ?それじゃ、いくらなんでも食えんだろ。
佐藤:そんな勿体ないこと出来ません。食べ物を粗末にすると、目がつぶれます!
部長:佐藤、お前平成生まれだろ?食い物粗末にすると目がつぶれるって、いつの時代の人間なんだよ!
係長:部長の仰る通りにしろ!やせ我慢しちゃダメだって!
佐藤:いや、僕食べます!
目をつむった佐藤は、ホイップクリームの混じったカレーを口中に含んだ。
数度の咀嚼の後、つむっていた佐藤の両まぶたが突如として開く。
ギラギラと輝く佐藤の二つの眼(まなこ)は、何かしら物言いたげな様子であった。
佐藤:部長、ついに見付けましたよ、秋の新作パン!
係長:まさか佐藤、お前……。
佐藤:係長、そうです!そのまさかです!
部長:佐藤……まさかとは思うが、カレーとホイップクリームを組み合わせる、なんて事を言うんじゃ……。
佐藤:自分も今、ビックリしているところなんです……カレーとホイップクリーム、こいつら中々相性がいいんですよ!
部長:佐藤、お前いくらなんでもそりゃ、やりすぎだよ!
係長:部長、今のいいですよ!そのフレーズ頂きました!
佐藤:やりすぎ……部長、いいですよソレ!
係長:やりすぎパン……いいと思いますよ、私は。
佐藤:カレーパンの中へ、ホイップクリームをタップリと流し込んでやる!その名も「やりすぎパン カレー&ホイップクリーム」。
部長:おうっ!案外いいかもな、その名前。
係長:うーん、もうちょっと何か欲しいなぁ……。
佐藤:じゃあ、サブタイトルを付けるような感じで、「ホイップクリーム攻め」って言葉を添えてみたらどうでしょうか?
部長:決まりだなぁ、ソレで。俺たちも攻めていこうじゃないか!スパイスのきいたカレーに突撃していった、そのホイップクリームのように……。
こうして、やりすぎパン カレー&ホイップクリームは、この世に産声を上げたのだが……ひそかに田中部長は、胸のうちでこうつぶやく。
「 薩摩芋とかカボチャとか栗とか柿とか、今までさんざん秋の味覚について議論してきたのに、結局のところカレーパンかよ……全然秋と関係ねえじゃねえか! 」と……。
完
※この物語は、フィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係がありません。
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実食の感想ですが、元々私は甘党なので、さほど違和感を感じずに完食出来ました。
ただ、カレーがスパイシーなので、ホイップクリームの方が、カレーに攻められているように感じました。
いやむしろ、カレーに立ち向かっていったホイップクリームが、返り討ちに遭っているような気さえします。