秋の和菓子「栗三昧」
近場でお抹茶を楽しみたい時私は、豊橋公園内にある三の丸会館へよく伺います。
先日も、美味しい和菓子とお薄を求めて、三の丸会館へ行って来ました。
先ずは、受付で呈茶料を支払って、一番奥にある席へ腰を下ろします。
さほど待つまもなくお給仕の女性が、お菓子とお薄を乗せたお盆を運んできてくれました。
外側に黒漆を、内側に朱の漆を施した半月盆の上には、瓢箪の形をした織部の菓子皿、そして菊の御紋と五七桐(ごしちのきり)をあしらった茶碗が乗っています。
茶碗の表面にある十六葉八重表菊(じゅうろくようやえおもてぎく)は、言わずと知れた、天皇家の御紋章。
桐(きり)は、鳳凰が止まる神聖な木として、天皇の衣類などに用いられます。
菊の御紋も桐紋も、二つながら天皇家に大変ゆかりのある紋章です。
してみるとこの茶碗、昨年の改元ならびに今上陛下の御即位を記念して作られたお茶碗なのでしょうか……?
菊は秋を代表する花なので、菊花紋の付いた茶碗は、この時節には相応しいかもしれませんね。
さてお給仕の方が、織部に乗る主菓子(おもがし)を掌(たなごころ)で指しながら、今日のお菓子の銘を私に伝えてくれます。
『本日のお菓子は、若松園さんの栗三昧(くりざんまい)です』と……。
私の後からやって来た一組の老夫婦は、このお菓子の銘を耳にして、プッと吹き出していました。
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栗ざんまいって……どうなの、このネーミング?
あったか饅頭のような顔をして両腕を広げる「すしざんまい」の社長を思い浮かべてしまうわ!
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と心の中でつぶやく私。
過去の日記でも、しばしばお茶席のお菓子については書いておりますが……もっと格調高い銘ばかりだったと記憶しています。
例えば……
若葉と桜が共存する野原をイメージした、菓子銘『春野(はるの)』とか。
菊の花を象った、菓子銘『まさり草』とか。
夏の青空に山のように盛り上がる積乱雲を表現した、菓子銘『雲の峯』とか。
いずれの菓子銘も、古い和歌に出てきそうな雅やかな言葉です。
それらと比較して、『栗三昧』と言う名前はどうなんでしょうか?
和菓子屋の親方も、「まぁ今回は、栗をどっさりと使ったからなぁ……栗三昧なんて名前でいいんじゃないか?」と、適当に名前を付けたような気がするんですが……。
私の邪推でしょうか……?
では、その栗三昧を頂いてみましょう!
一見すると、お節料理にあるニシンの昆布巻きのようです。
真ん中の少し緑がかった淡い黄色の部分が【栗きんとん】で、それを取り巻く黒い部分が【こしあん】です。
お菓子の名前については、さんざんディスりましたが、味はなかなかのものです。
私は以前から、「栗きんとんって、単体のみでは、少々物足りないお菓子だよなぁ。他の何かと掛け合わせると、きっと旨くなるんじゃないか?」と考えていました。
その答えは、この栗三昧にありました。
甘さを控えた上品なこし餡が、素朴な味わいの栗きんとんを、グッと引き立てています。
それでは最後に、茶花をご紹介しておきます。
この日のお茶席の花は二種類。
黄色い花が石蕗(つわぶき)、薄紫色の花が野菊(のぎく)です。
あっ!川柳が一句浮かんだので、したためておきます。
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栗三昧 笑う私は クリぼっち
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お粗末さまでした。