紅葉とティータイムと私
12月13日の日曜日、八事にある興正寺でのお話。
興正寺で開催されている寺宝展の見学を終えた後、当寺内にある『竹翠亭(ちくすいてい)』というお茶室へお邪魔しました。
竹翠亭は、大正時代の海運王・日下部久太郎(くさかべ きゅうたろう)の旧邸宅。
正確に言うならば、旧日下部邸の主屋の1階にあたる部分が、この竹翠亭です。
元々、岐阜市にあったのですが、現地での存続が困難となり、平成20年に興正寺へと移築され、今ではお茶室として利用されています。
「では、主屋の2階はどうしたの?」
そうです!当然、そのような疑問が生じるはずです。
主屋の2階は、和歌山の蓮華院へ移築される予定となっており、現在は解体材の状態で保存されているようです。
では、竹翠亭の入り口である相碾門(そうてんもん)を潜ってみましょう。
門を潜ると右手側に、岩と苔と白川砂から成る枯山水の庭が見えます。
庭の奥にある光悦垣(こうえつがき)の向こうには、発色鮮やかなモミジの木が二本、竹林を背景にして植わっています。
一本は深紅のモミジ、もう一本は橙色のモミジ。
このお茶室のモミジは、緑色の竹林と相まって、ひとしお艶やかに見えました。
大名屋敷を思わせる立派な玄関を上がると、屋内には四つの部屋があります。
説法の間・名都眺望の間・修行の間・出会いの間の四部屋。
近年、内部の襖絵が以前のものとは変わり、現在の襖絵は、水墨画家の山田大作氏が手がけた作品で、タイトルは「開山天瑞圓照和尚一代記」。
天瑞圓照(てんずいえんしょう)という僧侶が、この興正寺を開創した方です。
お薄とお菓子は、畳に炉が切ってある名都眺望の間と説法の間の二ヶ所で頂けます。
どちらの部屋も、竹林を借景とした小さな苔庭を眺めることが出来ます。
この苔庭にも、真っ赤に染まったモミジがありました。
私は、腰掛けてお茶の飲める説法の間で、お薄を頂戴することにしました。
墨で描かれた襖絵の中では、天瑞圓照和尚が、弟子たちに仏の教えを説いています。
床の間に目をやると、花入れには水仙が活けてあり、掛かっている軸は、茶筅売りの絵。
その昔、京都などで初釜(お正月のお茶会)用の茶筅を、年の瀬に売り歩く茶筅売りが、歳末の風物詩だったようです。
してみると、この茶筅売りの絵は、今の季節に合った掛軸ですね!
別名「雪中花」という水仙も、冬の時期の花です。
まるで、茶筅売りの掛軸と水仙が、まだまだ鮮やかに色付く季節外れのモミジに向かって、「早く私たちに主役の座を譲れ」と催促しているようです。
さあ、お薄とお菓子がやって来ました。
白木のお盆には、信楽焼の茶碗と黄瀬戸の菓子皿が乗っています。
本日の主菓子は、「年輪」という菓子銘の羊羮。
何なら一棹(ひとさお)ぐらい食べられそうなほど、ウマい羊羮でした。
美味しい羊羮とお薄、そして素敵な紅葉をありがとうございました!