お正月の室礼
1月3日に訪れた、八事・興正寺のお茶室「竹翠亭」の室礼(しつらい)が、とても素敵だったので、画像付きで幾つかご紹介したいと思います。
【室礼】とは、調度や飾りをその場にふさわしく整える、という意味。
竹翠亭へは、端午の節句・紅葉の時期・師走・お正月といったように、何度かお邪魔しています。
訪れる度ごとに、その時節に適った見事な室礼で、私の目を楽しませてくれるのです。
それでは、添付した画像について、順にご紹介していきます。
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●室内の松飾り●
金屏風の手前に敷かれた赤い毛氈。
その上に置かれた、二つの飾り物。
長さの違う二本の竹が、紅白の組み紐で結わえられており、短い竹には【餅花(もちばな)】が活けられています。
「餅花」は、しだれ柳の枝に紅白の団子や餅をさしたもので、新しい一年の五穀豊穣を願って作る、たいへん縁起の良いお正月飾り。
竹の隣には、水盤花器に松の枝と笹の葉が活けられています。
玄関や門の両脇に飾る門松は、竹や松や南天や葉ボタンなどを寄せ植えにしてありますが、こちらは別々にした松と竹とが一対になるよう、飾り付けられています。
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●御吹絵「富士二日」と鏡餅●
床の間には、『 富士二日(ふじふつか) 』という画題の吹絵(ふきえ)と、鏡餅が飾られていました。
【吹絵】というのは……
まず地紙の上へ、様々な形に切った型紙を置きます。
次に、筆に含ませた墨や絵の具を、息をもってして、それへ吹き付ける。
最後に型紙を取り除けば、絵の完成。
こんな手法の絵画です。
さて、この吹絵の上には「御」の字が付いて、『御吹絵(おふきえ)』と呼ばれています。
察しの良い方なら、もうお分かりでしょう。
この絵は、高貴な方がお描きになったので、御の字が付いているのです。
お描きになった貴人は、尾張徳川家七代藩主 徳川宗春公。
マツケン主演の時代劇「暴れん坊将軍」では、八代将軍徳川吉宗に横槍を入れ、足を引っ張る意地悪な敵役として描かれています。
確か「暴れん坊将軍」では、人相の悪い中尾彬が宗春を演じていたような……。
ですが、実際はそんな暗愚な殿様ではありませんでした。
吉宗は、質素倹約・規制強化を推進しましたが、宗春は「過度な倹約はかえって民衆を苦しめる」と考え、逆に開放政策・規制緩和を実行しました。
宗春のこの政策は功を奏して、当時の名古屋は、京の都をしのぐ程の繁栄を見せたそうです。
現代から見れば、経済の停滞を招く吉宗の緊縮政策より、経済が活性化する宗春の開放政策の方が、正しいと思うのですが……。
幕府から睨まれた宗春は後年、隠居謹慎を命じられ、不幸な晩年を過ごします。
幕府からは一種の罪人として扱われた宗春ですが、今こそ再評価されてもよい人物だと、私は思うのです。
だから私は吉宗より、宗春の方が断然に好きです。
でもでも中尾彬よりは、マツケンの方が断然に好きです!
……って、関係ないか、そんな話。
しかし、こんな貴重な絵を平然とお正月の床の間に飾ってしまうなんて、流石は興正寺!
歴代の尾張藩主が深く帰依した、祈祷寺だけのことはあります。
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●カンチン茶屋の猛虎●
お茶室「竹翠亭」を出て、渡り廊下をしばらく進むと、左手側にカンチン茶屋が見えて来ます。
もともと、このカンチン茶屋は、経典を保管していた倉を改装した建物。
重い木の扉を開けると、薄暗い倉の中から、一匹の猛虎が突然姿を現します。
幾本もの竹の飾り物で表現した竹藪。
その後方には、銀屏風を背にした虎の掛け軸が一幅吊るしてあります。
扉を開けた訪問者が、薄暗い竹藪からのっそりと姿を現した猛虎と不意に出くわす、という驚きの演出。
そう、今年は寅年でしたね。
本当にビックリしました。
猛虎だけに、もうコ(猛虎)リゴリだ!
お後がよろしいようで……。