「バタリー」のカヌレ
今人気の焼菓子「カヌレ」。
我々は通常、この菓子の事を、カヌレと呼んでいるが、それは正式な名称ではない。
正しくは、『カヌレ・ド・ボルドー』と言う。
ちなみにカヌレとは、「溝」とか「溝のある」という意味だ。
ボルドーはフランスにおいて、ブルゴーニュと並ぶワインの産地として名高い。
『カヌレ・ド・ボルドー』を意訳してみると、「ボルドー地方に伝わる溝のあるお菓子」、と言うことになろう。
今回は、そのボルドー地方の伝統的な焼菓子「カヌレ」で有名なお店を、ご紹介したい。
名駅三丁目にある「バタリー 名駅桜通店」である。
名駅二丁目にある「バタリー」の本店はテイクアウトのみだが、桜通店にはイートインスペースがある。
「バタリー」という店名でも分かるように、焼菓子に使用するバターにはとてもこだわりがあり、全ての菓子に発酵バターを用いている。
桜通店は焼菓子だけではなく、コーヒーに対しても、並々ならぬこだわりを持っているのだ。
店内にある焙煎機で生豆から焙煎し、ハンドドリップで丁寧に一杯ずつ淹れてくれるので、専門店のコーヒーと比べてもおさおさひけを取らない。
その日の私は、14時少し前に訪問。
すでに、イートインスペースの9席はすべて埋まっていた。
二十代の女性たちが全席を占領し、コーヒーを飲みながら、カヌレやその他の焼菓子をつついている。
スイーツ店では、よく目にする光景だ。
そんな中へ、オヤジが一匹まぎれ込むから、「紅一点」ならぬ『緑一点（りょくいってん）』となる。
店内でしばらく待っていると、レジカウンターへと呼び出された。
接客をするのは、50代前後の男性店員。
ホールスタッフは他にも、4名の若い女性がいるのに、なぜこのおじ様が……。
推察するに、このおじ様はきっと、菓子職人に違いない。
おそらく、カヌレが焼き上がるまでの間、慣れない接客をするのであろう。
してみるとこの方は、店長兼パティシエときどき接客係、といったご仁なのか？
板についた接客ぶりとは、およそ言い難い。
席へ案内する前に、お菓子の取置きをしておくので、希望するお菓子を選んでほしい、とのこと。
「じゃあ、まずカヌレを一つ……」、とここまで言ったところで、おじ様が私の発言をさえぎる。
「カ、カヌレですか？う～ん……」としばし考え込んでしまう、おじ様。
焼菓子を陳列したショーケースを、横目でチラリと見やると、たぶん完売したのであろう、カヌレは一つも残っていない。
ーーーーーーーーーーーーー
お客さまを席へご案内出来るのは、だいたい1時間後ぐらいになります。
3時には、次のカヌレが焼き上がりますので……。
あっ！？そうかぁ、お客さまが来る前に、カヌレが売り切れてしまうおそれもございますね、どうしようかなぁ……。
ーーーーーーーーーーーーー
と、またぞろ思案を始める。
＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝
イヤイヤ、ちょっと待ってくれよ！なんで3時に焼き上がった分を、全部売り切ろうとするワケ？
新たに出来上がった中から、私の分のカヌレを取置きしておけばすむ話でしょ？
＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝
と思うのだが……おじ様には何やら考えがあるようなので、ひとまず耳を傾けてみる。
ーーーーーーーーーーーーー
もし、3時に焼き上がったカヌレが無くなってしまったら、次は4時に焼けますので、そちらのカヌレを召し上がって頂きます。
よろしいですか、ソレで？
ーーーーーーーーーーーーー
【 いや、あのさぁ！カヌレひとつ食うのに、いったい何時間かかるんだよ！ 】と思い、少しイラっとくる。
もう頭にきたので、アカデミー賞授賞式のウィル・スミスのように、全力で平手打ちしてやろうかと思いました……。
カヌレとフィナンシェを一つずつ取置きしてくれるよう依頼した私は、1時間後に再訪問すると告げ、店を出た。
そして、15時10分ぐらいに再び訪問すると、まだカヌレが幾つか残っていたので、もう一つカヌレを追加注文し、飲み物は、バタリーブレンド（コーヒー）のアイスをたのむ。
では、カヌレから頂きます。
カヌレの頂上にフォークを差し、そのまま丸かじり。
カリカリに焼けた外側と、モチっとした内部。
素朴な味わいながらも、バターとラム酒の芳醇な香りと風味が、口の中いっぱいに広がります。
フィナンシェは、表面がしっかりと焼けていますが、個人的には、しっとりとした食感が好み。
味は良いだけに、好みの食感とズレている点が、ちょっぴり残念です。
バタリーブレンドは、申し分のない旨さです。
このクオリティーなら、コーヒーを飲みに来るだけでも、ここを訪れる価値はあります。
時間はかかりましたが、何とかカヌレにありつく事が出来ました。
美味しい焼菓子とコーヒー、ご馳走さまでした！
