こんな自販機を見た
40代後半  愛知県
2022/06/03 19:00
こんな自販機を見た
こんな自販機を見た。


今池の街中をブラブラしている時に、ソイツを発見したのだ。


ヤツは、「デリスクエア」というショッピングモールの入り口付近に突っ立っていやがった。


俺が近づいても、ヤツは何も話し掛けてこない。


きっと、人見知りが激しいのであろう。


少し失礼だとは思ったが、無遠慮にソイツを眺めてやった。


ヤツの正面と側面には、こう書かれている。

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焼き甘芋自販機

熟成あま~芋
ーーーーーーーーーーーーー

と……。


どうやら、焼き芋の行商人のようだ。


ご丁寧にも、温かい芋と冷たい芋の両方を、取り揃えているらしい。


「おいっ!商人(あきんど)だったら、世辞の一つでも言ったらどうだ」


「…………………………………」


「そんな仏頂面して、黙って立っていても、芋は売れないぜ」


「…………………………………」


「やいっ!何とか言ったらどうだ!!」


「…………………………………」


ヤツは全身を紫色に染めて、恐縮するばかりで、ウンともすんとも言わねえ。


頭にきた俺は、ヤツの正面へ回り込んで、ヤツのツラを睨み付けてやった。


四角四面の、まことに大きなツラである。


今のご時世を反映するかの如く、頑丈そうなフェイスシールドを装着してやがる。


しかも、フェイスシールドの内側に12本の筒まではめ込みやがって……。


どれだけ用心深いヤツなんだと、呆れてしまう。


それよりも何よりも驚いたのは、数字の書かれた目の玉が12個もあることだ。


これじゃ、まるでバケモノだ!


「なんだ、オメエが商っている芋にはサイズがあるのか?」


「…………………………………」



あい変わらず無言のままだが、芋の大小で値段が違うようだ。


温かい・冷たいに係わらず、Lサイズは500円で、Mサイズは400円、一番小さなSサイズは300円だった。


芋のサイズが一つ下がるに従い、100円刻みで値が安くなっていく。


コイツをねめつけて分かった事が、もう一つある。


ヤツの商っている芋は「紅はるか」だった。


「紅はるか」と言えば、安納芋より甘いと言われる極上の蜜芋だ。


思わず、ゴクリと唾を飲み込む。


気づかぬうちに、財布を取り出していた俺は、中から千円札を一枚抜き出し、ヤツの口へと近づける。


【いや、待て!どこの馬の骨とも分からないヤツから、口の中へ入れるモノを購ってどうする。もし、買って食って腹でも下したら、悔やんでも悔やみきれねえじゃねえか!】


財布をズボンの尻ポケットへ戻した俺は、ヤツの頭の先からつま先まで丹念に点検していった。


すると、ヤツのヘソの下の辺りに「いもくいん」という文字が読めた。


【なるほど、この“いもくいん”って奴が、芋商人の元締めだな】


今度は、財布ではなく携帯を取り出して、「いもくいん」を検索してみた。


「いもくいん」とは、西尾市にある焼き芋の専門店で、各地に焼き芋の自販機を展開しているらしい。



「するとオメエは、身元のハッキリしている商人だったんだなぁ……」


「…………………………………」


「おい、悪いんだけどよ、さっき中華料理を食ったばっかりで、今は満腹なんだ」


「…………………………………」


「オメエ、明日もココに居るかい?」


「…………………………………」


「もし明日、俺がココの前を通ってオメエが居たら、一つなんてケチなことは言わねえよ俺は」


「…………………………………」


「温かい焼き芋のL・M・S、冷たい焼き芋のL・M・S、都合6本買ってやるから、楽しみに待ってろ!」


「…………………………………」


「なんだよ、そんな恨めしそうな目で俺を見るんじゃないよ…… じゃあな、あばよ!」


その場を立ち去ろうとすると、ヤツが初めて俺に口をきいた。


「旦那、ワタシは自販機ですから、明日だけじゃなく、ずっとココに居ますよ」

と……。
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