シヤチルプリンと晴れの日カヌレ
名古屋の今池に『シヤチル』という、大人気のカフェがある。
殊に昼時となると行列ができるため、入店するのも中々容易ではない。
最初は、ゴールデンウィークの只中にお邪魔したのだが、30人以上の行列が出来ていたので、この日は入店を見送ることにした。
次は、2週間後の日曜日に再訪したが、またしても長い行列が……。
入店を断念すること、これで二度目となる。
しばらく間をおき、三度目の訪問は平日の金曜日の15時過ぎにした。
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土日・祝日を避け、さらに昼時をも外しての訪問である。まさか混んではいないでしょう。
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やはり私の思惑通り、三回目の訪問でやっと入店することが叶った。
まさに、三度目の正直である。
日記の冒頭に「カフェ」と書いたが、この店は「グランド喫茶」と称している。
では「グランド喫茶」とは何ぞや、ということになるが……。
コレは、昔ながらの純喫茶と今時のカフェを融合させたお店、という意味だ。
店内に入ってみると、いわゆる喫茶店の雰囲気など微塵も感じられない、純然たるカフェであることが分かる。
店内は奥にキッチンと4つのテーブル席があり、店の中央には6人掛のカウンター席がある。
さらに入口横の窓際には、2人掛のテーブル席が一つあった。
店名「シヤチル」の由来だが……。
名古屋といってまず頭に浮かぶのは、金の鯱鉾(シャチホコ)である。
名古屋のシンボルとも言える鯱(シャチ)と動詞の「~する」を合わせて「シヤチル」としたそうだ。
動詞の「~する」には【動き続ける】とか、【進化し続ける】という意味が込められている。
店内中央部の壁に描かれている、鯱の個性的なイラストを眺めていると、お冷や・おしぼり・メニュー表が運ばれてきた。
喫茶店の雰囲気を感じない、と先ほど書いたのだが、運ばれてきたおしぼりを見ると、熱く蒸されたハンドタオルである。
カフェでよく目にする、そっけのない使い捨ての紙おしぼりでないところが、古き良き時代の喫茶店を感じさせる。
さて、ここへ来た最大の目的は、晴れの日しか焼かないという「晴れの日限定カヌレ」を食べることだ。
シヤチルのカヌレを食べるには、前日の夜に、てるてる坊主を作って軒に吊るし「どうか明日は、晴れますように」と願掛けをする必要がありそうだ。
その日の朝方は曇っていたので、少々心配したのだが、昼頃からはかなり日差しの強い快晴となった。
お天気の心配はコレで解消したが、問題は訪問した15時以降に、まだカヌレが残っているか、という点である。
注文をとりに来た店員さんに、祈るような気持ちで聞いてみる。
「あの……カヌレって、まだありますか?」と。
すると、「まだ、幾つか残っていますので、大丈夫ですよ」と、店員さんが答えてくれる。
私は、お目当てのカヌレとシヤチルプリン、そしてアイスコーヒーを注文した。
ここまで読まれて、「なぜ、晴れた日しかカヌレを焼かないの?」と、疑問に思われた方がいるはず。
それは、曇りの日や雨の日は湿気が多く、焼き上がったカヌレの外側がカリっとせずに、フニャっとしてしまうからだ。
メニュー表にも、カヌレという文字の後ろに括弧付きで、(晴れの日)と記されている。
さて、注文したもの全てが運ばれてきたのでさっそく頂こう!
まずは、カヌレから。
カヌレを注文すると、サクランボの飾りの付いたホイップクリームの帽子を、カヌレの頭に被せてくれる。
サクランボが、ちょこんと乗っかっているところなどは、純喫茶で出されるデザートを彷彿とさせる。
天候にこだわって焼いただけのことはあり、外側はカリっと仕上がっており、内部はモチっとした食感で、ほのかにラム酒の風味が感じられる。
次は、シヤチルのプリン。
ここのプリンは、「プッチンプリン」のように舌の上で溶けていく、トロ~リ滑らかなプリンとは別物だ。
しっかりと咀嚼して頂く、固めのプリンである。
豆腐で例えるならば、「プッチンプリン」は絹ごし豆腐で、「シヤチルのプリン」は木綿豆腐であろう。
110円の追加料金で、ホイップクリームをたっぷりと乗せてくれる。
プリンの天辺にふんだんに盛られたホイップクリーム、そしてなみなみと注がれたカラメルソース。
ヴィジュアル的には最高で、まさに映えるスイーツなのだが……。
とにかく、甘さが足りない。
ホイップクリームもプリン自体も、それほど甘くはないのだ。
甘さ控えめではなく、甘さが足りないのである。
カラメルソースも甘くなく、どちらかと言えば、苦味が勝っている上に、少々酸味すら感じる。
もしかしたら、このカラメルソースにはコーヒーでも混ざっているのだろうか?
サッパリした味わいが好みの方には向いているプリンだが、個人的には不満足だ。
決して不味くはないのだが、もう少し甘さが欲しい。
何なら、自身で甘さを調整出来るように、黒糖シロップなどを添えて提供していただけると、有り難いのだが……。
まぁ、やっとの思いでシヤチルのスイーツを口にすることができたのだから、不平は言うまい。
美味しいカヌレとプリン、ご馳走さまでした!