リサイクルスイーツ「テラスミ」とサヴァラン
豊橋市の呉服町に「モンペリエ」という老舗の洋菓子店がある。
ここに、「テラスミ」なるテイクアウト専用のスイーツがあると知って、お邪魔してみた。
店内へ入ってみるとまず、彩り鮮やかなプチガトーが並ぶショーケースが目にはいる。
ショーケースの右側には、各種焼菓子の置かれた陳列棚があり、店内の3分の2は販売エリアで占められている。
残りの3分の1は喫茶スペースで、壁一面に和菓子で使う菓子木型が、インテリア代わりに飾られている。
お店の方に伺ってみると、先々代のご主人は和菓子屋をやっておられた、との事。
どうやら、先代のご主人の時に、和菓子から洋菓子へと転向なさったようだ。
現在「モンペリエ」でチーフパティシエを務める夏目文人氏は、三代目の当主である。
夏目文人氏はかつて、名古屋市覚王山にある超人気有名店「シェ・シバタ名古屋」で修業をされていたそうだ。
「シェ・シバタ」での修業を終えてご実家に戻り、家業を継がれて現在に至っている。
「シェ・シバタ」の総帥、柴田武さんといえば、強面のパティシエとして有名である。
柴田武さんのFacebookにあるご本人の写真をご覧になれば、一目瞭然だ。
白のコックコートをまとった柴田武さんが、「中段霞の構え」のポーズで、抜き身の日本刀を構えている姿は、とても迫力がある。
柴田パティシエは、まさに「スイーツ界の武闘派」もしくは、「体育会系パティシエ」と形容しても差し支えはないだろう。
俳優の國村隼を彷彿とさせる、あのおっかない容貌からは想像も出来ないような、優美かつ繊細でおいしいスイーツを次々と生み出してしまう、柴田パティシエ。
これぞ、スイーツ界の七不思議である……って、さっきから柴田さんに対して失礼だわ!
察するに、「シェ・シバタ」での修業時代は大変に厳しかったのではないかと思う。
そんな辛い修業を耐え抜いたパティシエが作る洋菓子だからこそ、味については信頼がおけるのではないだろか。
さて、そろそろ本題に入りましょう。
この日は、お目当ての「テラスミ」を求めて13時少し前に入店した。
お持ち帰り専用のスイーツなので、当然ながら店内で食べることは出来ない。
折角なので、「テラスミ」を一つ取り置きしておいてもらい、喫茶スペースでケーキとお茶を頂くことにした。
飲み物はモヒート入りの冷たい紅茶「セイロンスプリーム」を、ケーキは洋酒のきいた「サヴァラン」を注文。
「サヴァラン」は、ラム酒とレモンシロップをたっぷりと含んだブリオッシュ生地の上に、生クリーム・苺・キウイ・オレンジ・ブルーベリーを乗せた、小ぶりなケーキだ。
ところで、このフランス発祥の「サヴァラン」というケーキだが、人の名に由来しているのをご存じだろうか?
17世紀末から18世紀前半にかけて、フランスで活躍した政治家で、食通としても名高いブリア・サヴァランという人物の名前を、菓子名として付けたのだ。
サヴァランの名は、ケーキだけにとどまらず、チーズにも付けられている。
その名も『ブリア・サヴァラン』という、甘さを控えたチーズケーキのようなフレッシュタイプのチーズもある。
美食家の代名詞とも言えるブリア・サヴァラン、今風に例えるなら【インテリな彦摩呂】といったところか……ちがうちがう、絶対に違う!
紅茶とケーキを食べ終えた私は、近くの公園へ向かった。
帰宅するまで待てないので、公園のベンチで「テラスミ」を食べることにした。
さあ、いよいよ「テラスミ」の全貌が明らかとなる!
「テラスミ」は、モンペリエで製造している、『呉羽(くれは)カステラ』の切り落としを利用したスイーツである。
カステラの隅を使ったスイーツ、つまり「カステラのスミ」をつづめて「テラスミ」となる。
多分、「ティラミス」と語感が似るように、あえてこうしたネーミングにしたと思う。
モンペリエでは、「テラスミ」をクイックメニュー(簡単手軽に食べられる料理)の一つとしているのだが……。
カステラの切り落としは、本来なら売り物にならず、廃棄処分となる運命だ。
そんな切り落としを、再生利用して一つのスイーツに仕立てあげるのだから、リサイクルスイーツと呼ぶべきである。
ではでは、テラスミを実食!
クグロフのような形をした紙製の容器には、賽の目状にカットされたカステラがたっぷりと入っている。
賽の目状のカステラには、モンペリエ特製のクレーム・シャンティー(泡立てた生クリーム)と、シュガーパウダーがかかっている。
しっとりとしたカステラに、滑らかで口溶けのよい生クリームが、とてもマッチしている。
容量と味、どちらも申し分のないお持ち帰り専用スイーツであった。
美味しいスイーツと紅茶、ご馳走さまでした!