えっ!白髪セット!?
今日、歯科医院へ行った。
歯の裏側にこびり付いた、歯石を除去するためにだ。
歯垢と歯石は、違う代物である。
歯垢とは、プラークという、生きた細菌が歯に付着したものであり、歯石とは、そのプラークの死骸が、歯にへばり付いたものだという。
歯のクリーニングをしてくれた、歯科衛生士が、そう言うのであるから、間違いは無いであろう。
さて、ここまでは、本日の日記には、何も関係が無い。
単なる余談なので、話を先に進めたいと思う。
歯科医院を出て、時計に目をやると、もうお昼近い。
「どうせ、お一人様だし、ここはまぁ、お手軽に済ませておくか」と考え、駅前にある、すき家へと向かった。
やはり、お昼とあって、予想通り店内は 大変な混みようであった。
この手のお店は、食べ終わったお客が、いつまでもグズグズせずに退席するので、回転率が良い。
待つ間もなく、カウンター席の一番奥に、腰を下ろす事が出来た。
店員が、すかさず、注文を取りにきたので、私は迷わず、白髪ネギ牛丼の大盛をたのむ。
「白髪ネギ牛丼の大盛を、お一つですね!以上でよろしいでしょうか?」
「以上でよろしいでしょうか?」と、改めて店員に言われてみると、以上でよろしいとは、思わなくなってくる。
牛丼一杯の注文では、なんだか貧乏くさいし、また味気もない。
私は、メニュー表に素早く目を走らせて、とある箇所を指し示しながら、こう言った、「あのっ、このサラダセットも下さい」と……。
サラダセットとは、小皿に盛られた生野菜と味噌汁が、セットになったモノである。
そう、ココからが、この日記のタイトルに関係してくるのだ!
店員は、ご丁寧にも、私の注文を復唱してくれる。
「白髪ネギ牛丼の大盛がお一つ、それと、白髪セットがお一つですね!」
し、し、白髪セット!?何だ、それ!!
あまりに忙しくて、テンパっていたのであろう。
白髪ネギ牛丼と、サラダセットが、ごっちゃになって、サラダセットを、白髪セットと言ってしまったに違いない!
気の弱いワタシは、ツッコミを入れる事もなく、「あっ、はい、それでイイです」と、軽く受け流してしまった。
でもコレ、よく考えたら、コワいではないか!
何故って、もしお味噌汁と一緒に、白髪が盛られた小皿を、目の前に置かれたとしたら、ゼッタイ吐き気をもようすに違いない!
まぁまぁ、店員も自分の言い間違いに、気づいていないようだし、これもご愛嬌と言うことで……。
だが、ご愛嬌では済まされない事態が、この直後に起こったのだっ!
私が、お目当ての品をたのみ終えて、しばらく経った後、私の隣りの席へ、60半ばとおぼしき、痩せた男性がひとり、腰を掛けた。
件の店員が、間髪を入れずに、注文を取りにくる。
その男性は、牛丼の並盛と、味噌汁と生卵をたのんだ。
そうこうする内、注文したモノが、私の元へとやって来たので、私は早速、ドンブリに顔を埋めるようにして、牛丼をガツガツと頬張った。
すると、隣席の男性の注文も整ったと見えて、件の店員が、その品を運んで来たのだ。
「お待たせ致しました!味噌汁と生卵と、牛丼のメガ盛でございます♪」
イヤイヤ、並盛とメガ盛じゃ、かなり違いがあるだろう!
当然ながら、その男性は、鳩が豆鉄砲を食らったような表情をして、二の句が継げないでいる。
不穏な空気を、敏感に察知したその店員は、「あれっ?……メガ牛丼じゃなかったですかぁ?」と、恐る恐るその男性に尋ねた。
「牛丼の並ですっ!」と、ムッとした顔で返答する、その男性。
「あっ、あっ、失礼しました!」と、慌てて厨房へと向かう店員。
「いやぁ~、○○君、ごめん!間違いちゃった!牛丼の並だったわ……失敗、失敗!」と、悪びれる様子もなくその店員は、牛丼の並盛に変更するよう、厨房の男へ依頼する。
その店員の後ろ姿を見ながら、私は、心の中で、こう突っ込むのであった!
「イヤイヤ、失敗、失敗じゃないだろう。アナタ、大失敗ですよ!年齢と体型を見りゃ、メガ牛丼なんて食うワケないでしょが!並盛が妥当なところだし、せいぜい食っても、中盛ぐらいが、関の山でしょ!」と……。
哀れなのは、お預けを食らった、その男性である。
しょんぼりと萎れた、そのお客は、とりあえず玉子の殻を割り、小皿へと生卵を落とす。
そして、塗り箸を手に取り、牛丼の並盛がやってくるまで、ひたすら、生卵をかき混ぜるのであった……。
おわり