茶花を求めて(3)
点てたばかりのお薄が、私の膝前に置かれた。
茶碗は、紺鼠色(こんねずいろ)をした平茶碗である。
平茶碗とは、主に、夏季に使用される、口が広くて、底の浅い、お皿のような茶碗のことだ。
口の広い平茶碗であれば、お茶が冷めるのが早い。
であるから、夏場の茶事に用いられる事が多いのだ。
とは言え、点てて間もないお茶である。
一口目は、少々熱く感じられた。
このお茶席の主催者が、裏千家とあって、框床の掛け物は、裏千家十四代、淡々斎宗室大宗匠の手になる、「松涛」という横物軸。
松涛とは、松に吹く風を、波の音にたとえた言葉。
松と波、初夏のこの季節に相応しい掛け物である。
さて、肝心の茶花に言及しなければなるまい。
床柱に掛けられた、竹の花入れには、五種類の山野草が生けられていた。
その五種の山野草を、以下に記す。
①半鐘蔓(ハンショウヅル)
②宝鐸草(ホウチャクソウ)
③都忘れ
④草薙尾苔(クサナギオゴケ)
⑤三つ手岩傘(ミツデイワガサ)
上記の山野草のうち、都忘れを茶花として選ぶとは、心憎い演出である。
都忘れの名前は、承久の乱で京を追われた順徳天皇が、旅の途中、都忘れを目にして、「この花を見ると、都への思いを忘れられる」、と言った話が、由来となっている。
『伊勢物語』の昔男も、都を離れて、東下りをする。
慣れ親しんだ妻を、京へ残しての旅だ。
きっと、昔男も、この茶席に生けられた、都忘れを目にすれば、京のことをしばし忘れて、見とれたに違いない……。
つづく