どのみち食べ物の事を日記に書くのであれば、うまいモノに付いてあれこれと書きたいものだ。

遺憾ながらも、不得心ながらも、ここではマズいモノの事を書かねばならない。

先日、数年ぶりにおそろしく不味いカツ丼を食べたのだ！

その味のヒドさを、「日本一マズい」と形容したところで、私が非難をされる憂いは、まず無いであろう。

だが私は何も、当日記で、その店の名前や詳しい所在地をさらして、公開処刑を行う気などさらさらないし、そんな悪趣味もない。

よって、この店を特定するに至る情報は、一切記さないことにする。

さて、数日前のこと、仕事を終えて車での帰宅途中、「活魚料理、うなぎ、各種定食アリ 宴会承ります」と白字で書かれた、青地の大きな看板が目に入った。

その時、ちょうど空腹を感じていた私は、早めの夕飯を摂ろうと、迷うことなくハンドルを右にきり、その「よろず承り候」的な店の駐車場へ、車を滑り込ませる。

薄暗い店内に足を踏み入れた私は、主人とおぼしき人物と会話をする先客の二人から、少しく距離を置いたカウンター席につき、メニューをつらつらとながめる。

あった！私の大好物であるカツ丼が、メニューに記載されているではないか！

注文を聞きに来た、おかみさんに私は、「カツ丼をお願いします！」と、朗らかな声音で言い放つ。

おかみさんが、「は～いっ！カツ丼で～す！」と、お客二人を相手に話し込むご主人に向かい、大きな声を張り上げるも、ご主人の方は微動だにしない！

すると、そそくさとエプロンをしたおかみさんが、厨房に入り料理を始めた。

「今の掛け声って必要だったのか？」と、心の中でツッコミを入れる。

待つこと20分ほどで、カツ丼が目の前へ運ばれてきた。

早速、出来たてのカツの一切れを、割り箸でつまみ上げると、ころもがパラパラとはがれる。

これ以上ころもが剥がれ落ちないよう、細心の注意をはらって、カツを口に運ぶ。

噛んだ肉が噛み切れないほど固い。その上、下味を付け忘れたのか、肉に全く味がない。

どんつゆもこれまた、こちらの舌がバカになったのかと思うほど、味が薄い。

しょう事無しに、このマズいカツ丼を、赤だしで、胃の中へ流し込むことに決めた。

まるで、罰ゲームのような晩餐である。

ただ一つだけウマいと感じたのは、デザートで付いてきた、スイカのみであった……。