端午の節句の室礼~竹翠亭~
竹翠亭では、「季節の室礼~端午の節句を祝う~」と題して、男の子の節句にちなんだ飾り付けがされていました。
室礼(しつらい)とは、季節に合わせた書・花・物などを、床の間や玄関などに飾ること。
では、様々な飾り付けを順に見ていきましょう!
●まず、旧日下部邸より移築した相碾門(そうてんもん)の屋根瓦には、菖蒲の葉が乗っています。
幕末、八月十八日の政変で京都を追放された七人の公家のうちの一人、東久世 通禧(ひがしくぜ みちとみ)が、明治になってから、こんな和歌を詠んでいます。
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軒に葺(ふ)く てぶりは絶えて
あやめ草
花のみ映える 世となりにけり
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歌の意味はこうです。
「端午の節句に、菖蒲の葉を軒先へ挿すという習慣は絶えてしまい、新しい物ばかりが持て囃される世の中になってしまったなあ」
和歌の中にある【てぶり】とは、習慣・風習という意味。
香気の強い菖蒲(しょうぶ)の葉は、邪気を払うとされて、端午の節句には家の軒先へ挿すという習慣がありました。
ちなみに、軒に挿す菖蒲は、綺麗な花をつける「ハナショウブ」とは全く別物です。
「ハナショウブ」はアヤメ科の植物で、軒に挿したり菖蒲湯で使用する「菖蒲」はサトイモ科の植物なんですよ!
歌の中に「あやめ草」とありますが、この軒に菖蒲を挿すことを【あやめ葺く】とも言いますから、間違いではありません。
和歌の中でしか知ることがなかった、【菖蒲葺く】を実際に見ることが出来て、とても感動しました!
●さて門を潜ると、玄関の軒先には、鍾馗様の日除け幕が下げてあります。
鍾馗様は、魔除けの効験があるとされて、掛け軸や五月人形にもされていますね。
●玄関の式台には、紫陽花の花と兜の置物が飾られていました。
紫陽花は少し時期が早いような気がしますが、お茶席では五月に額紫陽花(ガクアジサイ)を茶花として用います。
●玄関を上がってすぐの五畳敷の間には、杜若(かきつばた)を描いた小屏風が置かれていました。
●煎茶用の茶席の床の間には、軸が掛かっていました。
その軸は、甍(いらか)の上になびく鯉のぼりの墨絵で、「丈夫意気高」(ますらお いきたかし)という言葉が書いてあります。
ますらお【益荒男=丈夫】とは、「立派な男・勇気のある強い男」という意味。
「ひとかどの男というものは、意欲的で活力に満ちている」という事であろう。
●玄関を入って右手側にある奥の間、ここの床の間には、吹き流しと花入に見立てた舟盛りの器が飾ってあります。
鯉のぼりと共に、空にたなびく吹き流しには、魔除けの意味があります。
舟盛りの中には、筍とゼラニウムが活けてありました。
筍は、岩をも砕いて真っ直ぐと伸びるところから、「タケノコのように逞しく素直に育って欲しい」という親心を表しています。
ゼラニウムはアオイ科の植物で、どんなに日照りが続いても根が絶えることがないので、「力強く丈夫に育ってくれ」という願いを表しているのでしょう。
●玄関を上がって左手側の奥の八畳間ですが……ここの床の間には兜・弓矢・太刀の三点が飾ってあり、その後ろには、東照神君家康公の遺訓を書いた金屏風が据えられています。
金屏風には、こう書かれています。
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人の一生は重荷を負うて
遠き道を行くがごとし
急ぐべからず
不自由を常と思えば不足なし
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●最後、縁側近くの畳廊下には、陶器の火鉢にハナショウブが活けてありました。
各季節ごとに、それに相応しい飾り付けをしていた昔の人たちって、現代の我々より心が豊かだったんでしょうね!
では、室内は一通り見学し終えたので、これからお抹茶を頂いてきます!!