多古八の串かつ定食 (一)
40代後半  愛知県
2017/05/22 20:58
多古八の串かつ定食 (一)
名古屋の千種区に、覚王山日泰寺(かくおうざん・にったいじ)というお寺がある。


日泰寺の山門へと続く参道の一角に、昭和の佇まいを保った、小さな大衆食堂が一軒ある。


入り口には白い暖簾が下げてあり、そこには黒字で【めし 串かつ 多古八】と書かれていた。


ここ多古八(たこはち)は、どて煮と串かつの名店である。


ガラスの引き戸を開けて中に入れば、あの懐かしき昭和の時代へ舞い戻ることができる。


店内は、間口が狭く奥に長い、いわゆる鰻の寝床のような造りだ。


内装もレトロだが、この店の方々も相当な年代物である!


厨房で調理をする男性が一名、調理の補助をする女性が一名、主に接客を担当する女性が一名。


三名ともに、「動く骨董品」といっても過言ではないだろう。


この三人を『なんでも鑑定団』に出したら、案外中島先生あたりが、良い値を付けるのではないかと、アホなことを考えてしまう。



さて、テーブル席へ腰を下ろすと、骨董品の一人が私の元へと歩み寄ってきた。


推測するに、ここの女将(おかみ)さんらしい。


女将は「いらっしゃいませ」と言いながら、私のテーブルへお茶とタクアンの入った小皿を置き、その場を去っていった。


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まだ、何にも頼んでないのに、何故タクアンを持ってきたのだろう?

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どうやら、この店のタクアンは、居酒屋でいうところの【お通し】にあたるようだ。


壁に掛かるお品書きを見て、どれにしようかと悩む。


串かつ定食にしようか?それとも、どてめしにしようか?


串かつ定食にすると、どて煮が食べられないし、どてめしにしたら串かつが食べられない。



串かつ定食+単品でどて煮、或いはどてめし+単品で串かつ、という手もあるのだが……。


うじうじとメニュー選びに頭を悩ませている私にしびれを切らしたのか、くだんの女将が注文を取りにきた!


「お決まりかナモ?」


よし、この女将さんに、私の悩みを率直に打ち明けてみよう!


「いやあ~、串かつ定食にするか、どてめしにするか、いま迷っているんですよ!どて煮も串かつも食べたいんですよね」


こう聴いた女将が、よい知恵を出してくれた。


「ほしたら、串かつ定食を頼んで、その定食に付く白めしを、どてめしにしましょうか?どてめしと串かつを注文するより、その方が少しだけお得だナモ!」



【そりゃ、ええ考えだナモ!】、と思った私は、その女将さんの提案を素直に受け入れることにした。



「串かつのタレは、どれにしますか?味噌・カレー・ソース、この三つの中から選んでちょう」


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やっぱり、味噌でしょ!

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「じゃ、味噌にしてください」、私がそう言うと、女将さんは少し首を傾げて怪訝な表情をした。



「あの……お客さん。白めしをどてめしにするでしょ。定食には赤だしが付くでしょ。串かつも味噌にするでしょ……ほしたら、味噌・味噌・味噌になってまうでナモ!」


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なるほどナモ!

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私としたことが、迂闊(うかつ)であった!


コレでは、三つも味噌がかぶるではないか!


私も、「味噌尽くし定食」を食べにきたワケではないので、味噌串かつは避けたいところだ。


そこで私は、ソース味の串かつを頼むことにした。



味噌あじの食べ物が、必要以上にかぶらないよう、やんわりと指摘してくれるその心遣いが嬉しいではないか!



それにしてもこの女将、打てば響くような人物である!



「定食の白めしを、どてめしにしたらどうか?」という助言や、「味噌がかぶりまくっておるでナモ」と、さりげなく教えてくれる、その細やかな気遣い。


なかなかトンチのきく女将である!


よし、今からこの女将さんのことを【トンチ女将】と呼ぼう!



それにつけても、どてめしと串かつが楽しみだナモ!!


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つづく

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