多古八の串かつ定食(二)
目端がきくトンチ女将が、私の座るテーブル席へ『串かつ定食・どてめしバージョン』を運んできてくれた。
白い楕円皿には、小ぶりな串かつが5本とたっぷりの千切りキャベツ、そして少量のマカロニサラダが乗っている。
草花模様の絵付けがされた白い丼には、つやつやと光る白米が七分ほど盛られている。
瑞々しいネギを頭に乗せた、赤味噌仕立てのモツ煮が、白めしの上にドッカリとあぐらをかく。
賽の目に切った豆腐とネギを具にした赤だしが、旨そうな匂いを辺りに漂わす。
小皿に入った二切れのタクアンは、まるで黄色の蛍光ペンで着色したかのように、ピカピカと輝いていた。
私の空腹を満たしてくれる頼もしい面々が、これで出揃ったワケだ!
まずは串かつから頂きたいので、ソースを……。
卓上のソース差しを確認すると、中身はしゃびしゃびのウスターソースだ。
あのドロッとして濃厚な【カツ専用ソース】など、この大衆食堂にあるはずもない!
ここは、大衆食堂のルールに従って、しゃびしゃびのソースでかつを頂く。
サクサクの衣の中には、ジューシーで旨味のある豚肉が詰まっており、さらさらソースとの相性も抜群だ!
付け合わせのマカロニサラダは、素朴な味付けではあるが、なんだか心がなごむような味わいである。
私の好みから言えば、マカロニサラダよりポテトサラダを推したい!
しかし揚げ物に添えるならば、このサッパリとしたマカロニサラダの方が良いのかもしれない。
さあ、次は真打ちの【どてめし】だ!
赤味噌でしっかりと煮込んだモツは、臭みもなくとても柔らかい。
赤味噌ベースの煮汁はコクがあって、やや甘みが強いものの、くどくなるような甘さではない!
赤味噌はもともと塩辛いので、甘さの加減は、これぐらいが丁度いいのではないだろうか。
味噌汁も出汁がよくきいて、デラうまい!
どれもこれも、B級グルメの域を出ないが、非常に安定感のある美味しさだ。
ごちそうさま!
会計を済ませて店を出た私は、なぜかしらモヤモヤとした感覚におそわれていた。
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あれっ!?お会計は、千円ぴったりだったよなあ……。
女将さんは確かこう言った。
「串かつ定食に付く白めしを、どてめしにしたら、どてめしと串かつを頼むより、少しだけお得だナモ!」と……。
どてめしは単品で600円。串かつは単品で400円。
合計すると、千円だよなあ……。
それで、女将さんが提案してくれた「串かつ定食・どてめしバージョン」が、千円……。
あれっ……あれあれ!?コレってお得だったの?
女将さん、お得どころか、お値段は一緒だナモ!
まあ、いいか。気にしない、気にしない!
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さてこの多古八だが、残念なことに、今月いっぱいで店を閉めるそうだ。
従業員の高齢化が理由で、店を続けることが困難になったという。
また一軒、昭和の雰囲気をまとった名店が消えていこうとしている。
また一つ、昭和は遠くなりにけりだ……。
~完~