茅沼
何年前だろう。
私は北海道は、釧網線・茅沼駅に降り立っていた。
釧路から数駅。
網走に行くローカル線。
あるものを目当てに。
一面一線のプラットホーム。
典型的なローカル線の無人駅だ。
私を下ろした一両だけのディーゼルカーは北に向かって走っていった。
降車客は私だけ。
ディーゼルカーが去った後は静寂だけが待っていた。
ホームで伸びをする。
深呼吸もする。
吐く息が白い。
ホームの目の前には釧路湿原が広がっている。
何故このようなローカル線の無人駅に降りたのか。
その数ヵ月前にNHKアーカイブスを見て、いてもたってもいられなくなった私は、列車を何本か乗り継いでこの駅に降り立ったのだ。
そう、丹頂に会うために。
丹頂に会うためだけに。
かつての茅沼駅は有人駅であった。
その代々の駅長が丹頂鶴に餌付けをして、駅の目の前の湿原に丹頂鶴が来るようになったのだ。
そう、私は丹頂鶴に会うためだけに、茅沼駅に来たのだ。
ホームの端から丹頂に手を振ってみる。
もちろん、反応なんてない。
丹頂は、私の事など関係無しに、ダンスを踊っていた。
丹頂観察に飽きた私は、駅から少し南の湖に向かった。
湖は一面氷結しており、辺りは静寂に包まれている。
帰りの釧路行きの列車が来るまでまだ時間がある。
手持ち無沙汰な私は、再び駅に向かう。
こうやって、北海道の無人駅で過ごすのが好きだ。
暫くして、列車がやって来た。
列車に乗り込み、車内を見回す。
列車の中では、地元の高校生たちが賑やかだ。
まるで、高校のホームルームがそのまま車内で行われてるようだ。
右側に釧路湿原の夕陽を見ながら、列車は程なくして終着、釧路駅に着いた。
さて、今日は何を食べようかな。
釧路といったら炉端焼きだよな。
そんなことを考えながら、私はタクシー乗り場に向かった。